翌日、渋谷からキャラデザ案のラフ画が送られてきた。
早すぎるし上手すぎる、流石としか言えない。
渋谷もノってるのがわかる。
視覚情報が増えた分、私のイメージも膨らむ。
いいね。私も私でノってきている。
ここからひたすらに書いた。
書いて書いて打ち合わせて書いて書いて書いて書いて打ち合わせてブチ切れて書いて書いて打ち合わせて打ち合わせて書いて書いて書いて書いて……。
「…………おもしれえ。特にこの騎士ディーンが、ヒロインとくっつくんじゃなくて自分のところのお嬢様と結ばれる展開がグッドエンドってところが乙女ゲーってより泣きゲーを優先してる感じが勝負していて良いな。プロデューサーとしては賛否ありそうでハラハラするけど、昔の泣きギャルゲとかなら主人公とくっつかないルートシナリオもないわけじゃないし。完全に無しってわけでもない」
タブレットで私の書いたシナリオを読みながら、高崎は電子タバコをくゆらせて淡々と感想を
やっぱディーンルートか。
ディーンルートはクライマックスで、騎士ディーンは選択を
自身の仕えるローグ侯爵家のお嬢様を守るか、お嬢様の命令を守ってヒロインを守るかの二択。まあその分岐を選ぶのはシステム上ヒロインなんだけど、干渉するか見守るかって感じで。
んで、初見だと基本的にヒロインを選んでしまうようにしてある。
でもヒロインを選んだ場合は、ヒロインが傷ついたディーンを支えるというストーリーが進行するが。
ヒロインもディーンも満たされず、悪役令嬢ジュリエッタの思惑通りに破綻する。
ディーンが自身の心に従ってお嬢様の命令に
ヒロインのエリィはお節介、つまり他者の幸福でも満たされるタイプだ。
騎士のディーンが身分差を
ちなみにヒロインは、執事クロガネに首の骨をへし折られる寸前で前作キャラのダンが現れて助かる。
ご都合主義にならないように一応伏線も張っているというか、今作はヒロインが平民な為に前作のブラウのようなお助け執事キャラがいない。
なので各ルートのお助けキャラとして、前作でアダムスキーが救い出したダン少年がアダムスキーの娘と共に現れる。
「うん、ここからはシステムに当てはめてアニメーション制作側の脚本とも打ち合わせしていこう。基本的なシーンや展開は、これで行く。渋谷呼んで本格的にキャラデザを決めよう。それと、魔法の詳細設定資料を具体的に固めよう質量とか重力を含む物理干渉とか魔力的なエネルギーの容量とかな。多分渋谷とアニメーション制作が欲しがる」
機械から吸い終わった煙草を抜いて灰皿へ落としながら、高崎はプロデューサーらしく語った。
そこからも順調だった。
強いて言うんなら渋谷が何回かアニメーション制作の方と揉めたりしたけど、なんか結局十歳年下のアニメ監督と付き合い始めた。あいつは馬鹿だがモテるってことなんだろう。
そして、ノンプリ:Nova発売から一年半後。
夏海は十四歳になり。
202X年、十月二十三日木曜日。
プロジェクトシーズンより【ノンプリンス☆ノンプリンセス:NovaⅡ~君を幸せにする為の恋をする~】が発売。
対応ハードは前回と同じく、PCとスニッチとQS4。
オープニングから共通ルートまでの配信許諾も出した。
初速は……まあそれなりに上場ではあるけど。
そんなことより。
「ただいまー! あー、楽しかった! もう舞浜に住みたい……」
「確かにあの辺って住むのはどうなんだろ、アクセスも悪くないと思うけど」
「俺はパスだな……行く度に喫煙所が減ってやがる……」
丸い耳のカチューシャを付けたまま舞浜から帰った私たちは、ソファに深く腰掛けながらそんな話をする。
真ノンプリⅡこと:NovaⅡの制作を終えて、予定していた通りに私たち一家は舞浜へと遊びに行った。
しかも日帰りじゃなくてちゃんと連休を使って
来年は夏海も高校受験があるから気軽には行けないし、高校生になったらきっと私たちと遊びに出かけるって感じでもなくなるから恐らくこれはかなりラスト寄りの舞浜旅行だろう。
「さぁーて、現実に帰ってきたしちょっと仕事しちゃおっかなー!」
カチューシャを外しながら高崎はタブレットで、休みの間に溜まった報告やらに目を通す。
まあ旅行中も喫煙所の中ではずっとスマホとタブレットで仕事をしていたけれど、なるべく休みを満喫するというか夏海と私との時間にする為に抑えていた。
「んー! 私は友達とダラダラ話して寝よっかな」
夏海は大きく伸びをして、カチューシャをしたまま自室に戻っていった。
「じゃ、私も色々チェックしますか」
そう言って私も、仕事部屋に向かいPCを立ち上げる。
メールボックスやメッセージを確認し、仕事関連の連絡に返事を出していると。
開くとURLが一つ。
ええ……? なにウイルス的な……?
いや…………なんか違う気がする。
なんだろ、わかんないけど違う。
私は昔使ってた初期化したスマホのブラウザにURLを手打ちしてVPNで開く。
開いた先は誰もが知る動画投稿サイトの動画ページ。
だが限定公開で、再生数は私が開いたことによる1の表示のみだった。
動画はそのまま再生された。
カメラの前にはシンプルな木の椅子がひとつ。
日当たりの良い窓際の部屋で、明るい白い壁にカーテンの影がゆらゆらと映る。
なんとなくこれだけでも日本じゃない場所って雰囲気が伝わる。
そんな部屋を写しながらガサガサとカメラ位置を整える音と揺れる画面から始まり。
そのまま画角の中に入って椅子に座ったのは。
「こんにちは、私です」
笑顔で手を振りながらそう言うのは、妹のハルちゃんだった。
「これはビデオレター的なものなんだけど……、まあこれが見られているということは――――」
ハルちゃんは笑顔のまま、ゆっくりと髪をかきあげるように。
「――――私は
そんな、今時誰も使わないようなベタなことを言った。