3月12日、朝のワイドショーを見ていたら、私にとって衝撃的なニュースを耳にした。毎年楽しみにしている高校野球がコロナの問題で中止になったのだ。私は画面を見ながらしばし言葉を失っていた。そこに美津子が声をかけてきた。
「春の選抜、中止ね。毎年あなたが楽しみにしていたことがコロナのせいでダメになったのね。あなたも残念だろうけど、選手がかわいそう。大会目指して一生懸命頑張っていたんでしょうけど・・・」
美津子も何とも言えない表情をしている。私ほどの興味はないのだが、この時期になるといつも一緒に観戦している。とは言っても、仕事のこともあるので録画して観ているのだが、まさか高校野球まで中止になるなんて思ってもいなかった。
このころになると感染防止のために「3密」やソーシャルディスタンスを意識し、生活様式も変化していた。お店もそれに合わせて席を間引いたり、間仕切りをしたりして感染予防に努めている。
でも、それは店内という空間だからこそであり、屋外でプレーする野球は関係ないのではといった思いがあった。数日前、プロ野球が開幕を延期するというニュースも知っていたが、そこまで感染が深刻になっているのかということを改めて知らされた感じだ。
「こういうニュースが次々に出てくるようでは世の中、ますます動きが悪くなってくるな。心理的にも大きくブレーキがかかるだろう。野球の話の前にはWHOがコロナのパンデミック宣言をしたって話をしていた。これまではこの問題も一時的なことと思っていた時があったし、というよりもそう思いたかった。でも、こんな状況になるなら、この前みんなで話したようなことをもっと早くからやって、後手に回らないようにしておけば良かった」
私は最近のことを改めて思い返し、自分の力ではどうにもならないもどかしさと同時に、改めて今後のことをきちんと考えなければならない、と強く思った。
ちょっと前までは何かニュースで見ても、まだ本当に実感として感じていなかった自分がいたことを思い知らされた感じだが、毎年当たり前だったことが次々に延期や中止になると、心配のステージは一段と上がったのだ。
そのきっかけは今日聞いた高校野球の中止や先日のWHOのパンデミック宣言ではあるが、自分なり社会の情勢を見ていたつもりでも、それが甘いことが分かったのだ。
そこで私は美津子に提案した。
「今日、お店を臨時休業して、1号店、2号店の全員を集めてミーティングをやらないか? 急なことなのでみんなに連絡することはできないが、アルバイトの子たちには今日の分は支給するということで言えば納得してくれると思う。確か2号店のほうでは、まだみんなの意見は聞いていなかったよね。1号店のほうはすでに1回話してあるので、何らかのアイデアを考えた人がいるかもしれない。みんなと危機感の共有を図る意味でもやっておきたいんだ。幸い今日は木曜日で通常でもお客さんは少ないし、最近はさらに少ない。今日のニュースを見て、みんなにも思うところがあるかもしれないから、ここは全員で意識を高めよう。今日はコースの予約はないけど、2号店は?」
私の言葉に美津子は頷いた。2号店にも予約が入っていないとのことだったので、ならば臨時休業でも問題なしと判断し、全員1号店に集まることにした。