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緊急事態宣言発出 21

 3月末になり、やっと「3密」対策ができた。もちろん、それで十分とは言えないかもしれないが、できる限りのことはしたつもりだ。常連客からもそういう評価を得ている。こういうことは客観的に判断してもらえなければ意味がない。客が安心感を持てるか、ということが大切なのだ。だから目に見えてこれまでと違うことを分かってもらわなければならない。来店する人もテレビで「3密」のことは知っているし、その対策がしてあるかどうかはこの時期、客足に直接響くはずだ。

 4月からスタートする予定のランチも、感染の可能性があるような店では来てくれるはずがない。これは店としての死活問題になるので、きちんと行なった。

 ところで、新しいことをやる場合、自分たちだけで盛り上がっていても意味がない。いろいろな情報をきちんと告知することが大切だ。

 それはランチのことだが、これまでは居酒屋として夕方からの開店だったので、メニューだけでなく営業時間のこともお知らせしなければならない。

 そのため今日、近所に1号店、2号店それぞれのエリアで3000枚ずつのチラシを配ることになっている。数日前から店の内外にランチのことをお知らせする案内を貼っているが、それを目にするのはどうしても限られる。ある程度の範囲で、しかもこれまで来店したことがない人にまでお知らせするには、直接情報が届くチラシは効果的だ。

 印刷は数日前にお願いしてあるが、印刷直前に「3密」対策の一文を入れてもらった。印刷寸前だったので何とか間に合ったが、そこから今度はポスティングの業者に配送してもらい、店を中心に会社や個人宅に配ってもらう予定になっている。

 中にはスタートを勘違いして配布の日に来店する人もいるかもと思い、私と美津子は午前中から店に出ることにした。

 世の中は大変な状況だが、自分たちで考えた新しいことがスタートするとなると、気持ちも上向く。これは私や美津子だけでなく1号店、2号店のチーフも同様らしく、チラシ配布の日は早く出勤することになった。これは私たちからの要望だったわけではなく、自発的な申し出だったが、そういう気持ちは私たちを喜ばせた。さすがにアルバイトのメンバーはいなかったが、明日からは戦力として頑張ってもらわなければならない。

 そういうことを考えながら、私は1号店に向かった。

 すでに矢島が来ていた。話を聞くと、やはり気持ちが逸っていたようで、想定していた時間よりも早く到着していたのだ。その上で店内の掃除をしていた。昨晩も掃除をしており、何も問題ないはずなのに、これからのことを考え、一生懸命なのだろう。その様子に私は胸に熱いものが込み上げていた。


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