4月1日午前11時、ランチタイムスタートの時間だ。この時間の来店者は経験がない分、読めない。だが、忙しくなった時のことを考え、夜のシフトのアルバイトから1人、応援を頼んだ。私と矢島である程度対応できるとは思っていたが、新メニューのことがあるので、盛り付けや料理の提供などでこれまでとは異なる流れがある。ただ、午前中にランチの仕込みは終わっているので、すぐに提供できるだけの準備はしてある。
「今日、どれだけいらっしゃるでしょうね」
ヘルプに入っているアルバイトが言った。先日のミーティングが影響しているのか、話の雰囲気から積極性が伺われる。今回のランチ企画の場合、事前にポスティング業者にお願いして3000枚配布してあるが、その他に店頭やそれ以外の場所で直接配布も行なった。その時のメンバーの1人が今回ヘルプに入っているアルバイトなので、気持ちも入りやすいのだろう。
だが30分経っても来店者はいない。
「出足が悪いですね」
矢島が心配そうに言った。私は店内から通りの様子を眺めている。このところの感染者増とその原因の一つとして飲食が挙げられていることが気になる私は、どうにももどかしい思いを禁じ得ない。報道では接待を伴う飲食になっているが、受け取る側としては同じように飲食店として理解しているのではという疑念もあり、知事から出されている夜間の外出自粛要請なども本来の営業時間の来店者数に影響を与えていると考えている。だからこそのランチタイム営業なのだが、11時半になっても1人の来店者もいないということは、精神的にきつい。
その時、アルバイトが言った。
「でも、まだ11時半じゃないですか。ランチタイムというと、みんなが昼休みの時にお昼ご飯ということでみえるわけでしょう。僕はもともと11時半のオープンでも良いのかなと思っていたので、まだ落ち込むのは早いですよ」
一瞬お気楽なセリフのようにも思ったが、この言葉にも一理ある。そもそもこの企画の対象としていたのは会社員だったはずだったし、たとえそうではない近所の方であっても、11時からランチというのは早いかもしれない。この点、未経験だったので早いほうが良いのではということから11時からにしたのだが、ここはもう少し検討すべきだったかもしれない、と少々反省した。
そういう話をしていると時計の針は11時40分を少し回っていた。
そこに3人の女性のグループが現れた。ランチ企画最初の来店者だ。まだ誰も客がいないところを見て、その中の1人が思わず尋ねた。
「もうやっていらっしゃるんですか?」
「いらっしゃいませ。やっていますよ。今日からランチがスタートしましたが、お客様たちが最初です。ありがとうございます」
私は満面の笑みで答えた。
「えっ、そうなんですか? 最初のお客様というのは嬉しいです。先日会社のポストに入っていたチラシを見て、居酒屋なのに女性用のメニューを考えたランチがあるということで友達とやってきました。テーブルにも花が飾ってあるし、居酒屋さんのイメージじゃないわ」
そのグループは店内を見渡し、イメージの違いをそれぞれ口にしていた。私は好きなところに着席していただくよう促した。
各自着席したところで水を持って行き、オーダーを確認した。