メニューには女性用と男性用に分けてランチだけの料理が掲載されている。基本的にはそれぞれ日替わりが1種類、定番が2種類の計3種類を用意している。男性用も同じ構成だが、もちろんそれはどれをオーダーしても構わない。ただ、このグループは今回の企画に反応して来店したので、質問も女性用のメニューについてだった。
「今日の日替わりって何ですか?」
グループの中の1人が質問した。
「はい、春野菜を中心にしたサラダにパンとスープ、それからチキンのソテーになっています」
「えっ? 全然居酒屋さんっぽくない。イメージが全く違うわ。でも、私はそれにする。良い意味で誤算だったわ」
他の2人を見ながら言った。その人たちも全員首を縦に振り、共感している様子がよく分かった。そしてオーダーも同じメニューになった。
この時思ったのは、ランチの場合、短時間に混むことが予想されるので、なるべくメニューには料理の内容を書き、説明の時間を短縮することが必要では、ということだった。そしてそういう会話の時の印象も常連になってもらう際の要素であることは理解しているので、今日の反省点として後で検討することにした。こういうことは現場に出ないと気付かないことでもあるので、良い経験をしたと思った。
オーダーを厨房に通した時、この日2組目の来店があった。やはり12時近くになってくると動きが違ってきた。さっきの心配は何だったのかと思うようになったが、2組目は2人組の男性だ。すでに来店者がいるせいか、夜の場合と同じように、普通にテーブルに着いた。
すぐにメニューに目を通し、オーダーのために呼ばれた。そしてそのうちの1人が同じように日替わりメニューについて質問してきた。もちろん、男性を意識したメニューのほうだが、今日はチキンの照り焼きだった。女性用の場合とソースは異なるが、素材は同じだ。付け合わせの野菜は一般の定食同様キャベツやレタスで、こういうことは仕入れと関係する。飲食店の場合、食材とメニューを工夫し、無駄を無くすことが要求される。そして具体的な料理では、素材は同じでも調理法が異なることで味も内容も異なることになる。この日はチキンをメインにし、調理法の違いで提供することにしていたのだ。
そして選択したのが1人は日替わりで、もう1人は豚の生姜焼き、ということになった。男性メニューの場合、どうしても肉系が多くなりがちだが、もちろん男女とも魚系も準備してある。その日の好みでチョイスできるようにしているが、そういうことで毎日の来店でも飽きないようにという配慮をしている。
オーダーを通した時、来店者の数が増えてきた。ランチの場合、限られた時間の勝負になることは分かっていたので、いかに素早く料理を提供できるかが大切だ。ホールのほうも厨房もそれは理解している。だからこそメニューを絞り、効果的に回せるよう腐心するわけだが、12時を過ぎると満席になった。もっとも、今は感染対策を意識して席を間引きしてあるので、本来の満席ではない。相席もお断りしているので、満席といってもこれまでのことを考えると思ったよりは大変ではなかった。
その忙しさも1時近くになるとスーッと引いていった。ランチタイムの喧騒が一気に無くなったのだ。夜の営業では経験しないようなことだが、久しぶりに新鮮なタイプの忙しさを感じた。