次の日の朝、私たちはいつものように朝のワイドショーを見ていた。帰宅が夜のニュースの時間に間に合わないため、朝のワイドショーは貴重な情報収集の時間になる。
話題の中心は相変わらず新型コロナウイルスだ。国内のことだけでなく、海外の様子も報道されていた。
そこでは世界の感染者はこれまで90万人近くになり、亡くなった方も4万人を超えているとのことだった。国内を見ても2500名弱、亡くなった方は57名となっていた。これを多いと考えるか少ないと考えるかはそれぞれかもしれないが、世界中が問題視していることは数字の問題以外に何かあるのではと思うのは私だけではないだろう。
テレビで今後の感染拡大の懸念を繰り返し強調しており、3月下旬に出された外出自粛要請はその緊張感をますます募らせる。
私たちはそのニュースを見ながら、同時に顔を見合わせていた。昨日の夜、明るく話していたことが一気に現実に引き戻された感じがしたのだ。
「昨日はランチタイム企画が思った以上の結果だったので少し浮かれていたが、こういった数字を見ていると安心できないな」
私が言った。美津子もそれに頷いている。すでに朝食は済ませているので、今はリビングでお茶を飲んでいる。ニュースの内容で変に喉の渇きを感じている自分がおり、その度に潤している。
「こんな話を聞いていると、昨日話していたことが虚しく感じるわね」
美津子が思わず口にした。
「でも、俺たちにも生活があるし、きちんと働いて稼がないと食べていけない。感染は怖いけれど、だからと言って何もしないわけにはいかない。スタッフの生活もあるし、俺たちが弱気では示しがつかない」
私の心も一連の流れで揺れ動き、弱気になることもあるが、そこは経営者としてどうするか、一家の家長としてどうするか、という意識が必要だ。美津子が弱気になった時には私が強くならなければならない。私が弱気になった時には励ましてくれたが、お互いこういう時だからこそ相手を補完する意識でいなければならないことを知っている。だからこその言葉だったが、ここで思い付いたのが整体を受けることだった。
ランチ企画のことで最近全然身体を整えていなかったし、そこから気持ちもほぐれるのではと考えた。これまでも肉体的なことだけでなく、精神的に落ち込んでいた時にも効果があったことを経験している。今のような時だからこそ、奥田の整体を受ける意味があると考えたのだ。
「美津子、今日、奥田先生のところに行かないか? ランチメニューのことなどで心身とも疲れているだろう。以前、なるべく定期的に通うことを考えていたけれど、最近の流れから行きたくても行けなかった。でも、それで体調を壊しても意味がないし、これから頑張る意味でも今日、できるだけ心身に疲れを感じた当日に解消したら良い。心身が変わったら、また積極的にいろいろ考えられるよ」
私は元気付ける意味も込め、明るく言った。
「でも、今日の仕込みがあるし、第一、奥田先生の施術の予約をしていないでしょう。急にお電話して大丈夫かしら」
時計を見れば今8時を少し回ったところだ。奥田の整体院は9時オープンで、8時前後くらいには準備のために店に来ていると聞いている。だから、電話して確認してみることにした。そして、大丈夫であれば一番でお願いすることにした。
仕込みに関して心配していた美津子だが、系列店なのでメニューのことや仕事の流れは私も理解している。1号店ではある程度準備ができているので2号店も同じような感じではないかと確認すると、その通りということだった。ならば、整体の予約次第で2号店のチーフの中村に連絡し、少々遅れることを伝える、ということで話はまとまった。