幸い、9時からの予約が取れた。というより、私たちの仕事のことを考え、8時45分の予約として受けてもらった。もちろん、奥田の施術をリクエストしたが、すでに店にいるということだったので、早めにやってもらえることになったのだ。今、ランチのこともあるし、スタートしたばかりのことなので、なるべく美津子も先頭に立って頑張りたいという気持ちがあり、それを奥田が受け止めてくれたわけだ。私たちの仕事の場合、仕込みの関係があり、準備できていない時にはオーダーが受けられないことがある。だからなかなか開店前に店を空けることは難しいところがあるが、整体の場合、仕込みに相当することがないからということで受けてくれた。
私は今回の企画をうまく成功させ、本来の仕事の時間帯の売り上げ減少分を少しでもカバーしたいと考えている。それは美津子も同様だし、いま私たちが感じている限りではスタッフも同様だと思っている。だからこそ、私たちは元気がないところをみんなに見せるわけにはいかない。
今回、新企画でみんなの気持ちも上向いていると思われるが、その気持ちをますます燃え上がらせるのは私たちの仕事だ。心身の状態をきちんとメンテナンスし、新型コロナの閉塞感を何とか打ち消したい気持ちでいる。
そう思いつつ、私は美津子にある頼み事をした。それは他の業態のリサーチだった。こういうことはお世話になっている奥田に対して失礼かとは思ったが、業種によっては今の事態でもあまり影響がないところもあるかもしれない。そういう話を少しでも聞けたら、またそれが励みになるのでは、というところからの話だった。美津子はその意を汲み取り、尋ねてみる、ということだった。
予約時間の5分前、美津子は奥田の店に着いた。
「おはようございます。すみません先生、今日はご無理を言ってしまいました」
美津子は深々とお辞儀をして、今日のことを詫びた。
「いえいえ、今、飲食業界は大変でしょう。それで頑張っていらっしゃるんですから、私も精一杯応援させていただきます。それで、先ほどのお電話で伺った通り、最近のコロナ問題関係の問題が重なり、心身ともに疲れている、ということでしたね。時間があまりないということでしたので、電話でのお話を元に施術させていただきます。もし途中で何かありましたらおっしゃってください。すぐに対応しますので」
奥田は優しい笑みを浮かべながら言った。美津子は会釈で返し、施術スペースに向かった。常連とまでは言わないが、施術の流れは知っているのでこの日は早々に横になった。
いつも通り触診からスタートし、身体の様子を確認しながら施術がスタートした。