奥田の配慮で店に向かう時間に遅れることなく到着した美津子だったが、事前の連絡を受けた中村はすでにランチの準備中だった。
「おはよう、中村君。今朝はごめんなさいね、急に電話して。でも、おかげさまで助かったわ」
美津子はまず中村に謝った。でも、中村もチーフとして店の様子は理解しているし、経営者としての立場もいろいろあるだろうからということで何も不満に思っていない。今朝の電話で美津子が体調管理のつもりで整体を受けに行っていることは知っている。今はこれまでと違う社会になっているからこそ、いろいろストレスもあるだろうし、それで倒れでもしたら店の経営はさらに厳しくなる。そういうことは中村自身も同じなのだが、年齢のことや店での序列を考えるとまずは美津子の体調を心配するのは当然と理解している。
だが、美津子も逆にスタッフのことを心配しており、続けて言った。
「中村君もストレス、大丈夫? 私は今朝、主人やあなたに甘えて心身を癒してもらったけど、あなたも何か体調に問題を感じたら遠慮なく言ってね。良い先生を紹介するから」
美津子は笑みを浮かべて言った。今朝の施術が効いているようで、気持ちがどこか高揚しているような感じだった。
「俺は若いから大丈夫です」
中村は真顔ではっきり言った。直後に変な言い方をしたといった表情になったが、美津子はその一瞬を捉え、すかさず返した。
「中村君、私を年寄り扱いしているの? あまり年は離れていないじゃない。あなたがウチのチーフだから心配しているのよ。本当に何かあったら相談してね」
言葉こそ怒ったような感じではあるが、笑いながらの返事である。何か他意があるわけではなく、そこはお互いに笑い飛ばすような雰囲気だった。
「さあ、仕事しよう。今日の日替わり、何だったかしら?」
「女性用はポークソテーのハワイアンソース、男性はポークカツです。今日は豚肉がメインになります。昨日はチキンでしたから、続けて来店される方にも喜んでいただけると思います」
自信を持って答える中村だった。
2号店も1号店同様、午前11時オープンで、昨日は出足も同じような感じだった。そういうこともあるのだろうか、この日は余裕をもって来客を待てた。さすがに昨日は最初の来店までがとても長く感じたが、ランチタイムの動向が分かれば気にすることは無い。来店者数についても1号店同様、予想を上回っていたので動き始めれば、という気持ちがある。
もちろん、ランチタイムは始めたばかりであり、最初のうちは珍しさも含め、ご祝儀的な忙しさということがある。だから、まだ読めないことだらけだが、そういうところは様子を見ながら修正すべきはするということで対応していかなければならない。商売は柔軟性を持ち、常にアイデアを練ることが大切と私も美津子も理解しているつもりなので、日々の様子をきちんと分析し、対応していくつもりでいた。