その日の夜、私たちはこの日の様子を話し合っていた。
ランチタイムについては初日の流れから大体予想できたし、数字などについても思った通り1号店・2号店共に同じような内容だった。
となれば、関心事は私が今朝、美津子に頼んでいたことだった。居酒屋と整体院とでは業種としては全く異なるが、だからこそ気になる。
「奥田先生、何ておっしゃった?」
私はお茶を飲みながら言った。いつもならビールなのだが、今日はお酒を飲みながらという感じではなかった。コロナ禍の現在、他業種のことも情報を仕入れ、商売全体の傾向を知っておかなければならない、という気持ちだったのだ。
「やっぱり、数字は落ちているそうよ。でも、その内容を聞いていると、本気で体調の改善を考えている人の場合、ちゃんと通っているとおっしゃっていたわ。リラクゼーション目的の人は足が遠のいているそうだけど、奥田先生のところは技術がしっかりしているから、本当に体調が悪い人が通っているようだし、私たちが紹介してもらった時もそういう話だったから技術レベルが高いと期待して通うようになったじゃない。私たちの商売で言うと味ということになるでしょうけど、やっぱり差別化するところというのは、表面的なところじゃないのよ」
美津子が分かったような顔で言っている時、私がすかさず言った。
「それ、この前俺が言っていたことと同じ。そんな自慢気に分かったような顔で言っても俺のほうが先に話していたよ」
私は半分笑いながら言った。そして改めて商売の原点を確認したような気がした。
「居酒屋は味、整体は技術ってところか」
話をまとめたところで何気なくテレビのスイッチを入れた。ニュースを見るためだが、最近はランチタイムのことばかり話していて、テレビを見る時間がなかった。
改めてコロナの話を聞くことになったが、世界ではますます感染者が増え、大変なことになっている。日本は数字こそ少ないが確実に増えている。そういうことも関係するのだろうが、布製マスクを国民全員に配ることになったと報じている。といっても各家庭に2枚ずつだが、ウチの場合、3人家族なので1枚足りない。現在、マスクの品不足で法外な値段でネットなどで売られている。幸い、ウチの場合、早めに対応していたので家族やスタッフの分については当面大丈夫だが、全国的に見ればマスク不足で困っている人も多いと思われる。私たちの場合、何とか足りているため、直接自分に関係していないと認識している。そのため、マスクの件については思ったほど意識していないことが改めて実感した。
そこから世の中全般についての不認識では今、この困難を乗り切ることはできないのではという思いが強くなった。
だからと言って今以上のことをどうするか、といったことを個人レベルで考えてもやりようがない。今言われていることを確実に実践し、自分が感染しない、そして他人にうつさない、ということを徹底することしかないのだ。国としてもこれまでやっていなかったことをやる、ということまで聞かされ、今回の問題が過去とは根本的に異なる、ということが改めて実感された。