夜、この日1日の様子を2人で報告し合ったが、基本的なところでは変わりない。私以外は結構しっかりと現実を受け止め、負けない心意気を示したことを確認した。
1号店の矢島の話は直接私が聞いている。2号店の中村の話は美津子が聞いた。それでその詳細を尋ねたのだが、せっかく始めたランチタイムがあるので、そこを中心に減収分を補充しましょう、という話が出たようだ。
まだスタートしたばかりだし、それでも予想以上の感触だ。まだまだ改善の余地はあるだろうが、そういうことはやってみなければ分からない。そのことは以前からも分かっていたつもりだが、これまでの経験が役に立ちそうにないのが今回の緊急事態宣言だ。まだ誰も経験したことがないわけだから当然なのだが、私たち以前の世代の人が聞いたら、戦時中はこんなものではなかった、という声も聞こえてきそうだ。
確かにその時代は今より緊張の状態は強かっただろう。私自身は直接体験したわけではないが、コロナよりももっと直接的に命の危険がある戦争とは比較できない。以前テレビの放送の中で、外国の元首がコロナ問題を戦争に例える発言をしていたことを耳にしたことがあるが、重なる部分はあるだろう。しかし、町が破壊されるわけではないし、一定の期間が過ぎ、感染が収まれば、また以前の日常が戻ってくる、と考えれば明るい気持ちになる。
考えてみれば当然のことであるが、やはり見えないところで心身が疲れており、つい気持ちが弱くなっていたのかもしれない。
そう思ったら、ますます明日、奥田のところに行くことが楽しみになった。
すると考え方もポジティブになり、美津子に今後の見通しを話すことにした。
「まだ、緊急事態宣言でどうなるかということは発表されていないけれど、この期間、どうする?」
私の質問に美津子は、今予想される規制の内容を前提に考えよう、という趣旨のことを話した。
「今テレビで言っているのは、感染経路のことだけど、人と人の接触をなるべく抑えることが大切ということでしょう。となれば、北海道のように個人には外出自粛制限、お店には営業時間短縮要請といったことかしら。報道でも言っていたから多分そういうことよね。もしそうなったら、基本的には従うことになるでしょうから、それはウチだけの問題ではないでしょう。他のお店も同じだから、そういう協力をすることで少しでも感染者を減らせたらいいわね」
美津子が言うことはもっともだ。
しかし、同時に売り上げの減少というのは仕事の継続の上でとても心配だ。
「でも、緊急事態宣言に伴い、事業者への救済も行なわれるようだし、それをうまく活用したら?」
まるで私の心を読んだような言葉が美津子の口から出た。私もそのことはテレビで知っていたが、どこまでそれが助けになるかは分からないものの、一縷の望みということにはなっている。もちろん、店自身としてもいろいろ工夫するつもりだが、スタッフの言葉や美津子の考えを聞いて、改めて強い気持ちで経営を頑張ることを決意した。