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体調不安 6

 家には午後7時少し前に着いた。私は駅から家まで歩きながら、今日1日のことを改めて思い出していた。

「今日は長かった・・・」

 思わず私が漏らした言葉だ。玄関の前に立った時、気持ちが少し和らいたが、同時に本当にコロナに感染していたら家族にもうつすことにならないか、という心配が頭によぎった。

 その瞬間、家の中に入るのが怖くなった。

 しばらくドアの前で立ちすくむような状態になったが、やはり家には戻れない、という思いが強くなった。

 でも、身体を休めたいという気持ちも強く、事実、立っていてもフラフラする感じがしていた。そんな時、テレビで聞いたことを思い出した。

「そう言えば、自主隔離ということで一人でホテルに泊まる、ということがあったな。確か隣駅にビジネスホテルがあったけれど、泊まれるかな? でも、もし本当に感染していたら知らない人に感染させてしまうかもしれない。それも迷惑をかけることになる」

 そういったことを一人でブツブツつぶやいているが、おそらく人が見たら不審者に思われるだろう。しかし、そういったことを考える余裕はなかった。また、ここからタクシーに乗って隣町のホテルまで行っても部屋が無ければ泊まれない。私はまだ仕事中だとは思ったが美津子に電話することにした。携帯電話は通じないはずなので店にかけたが、ちょうど美津子が出た。私は今日の様子を簡単に話し、どうすべきか相談した。自分で決めれば良いのだが、今はその精神的な余裕はない。つい美津子に頼ってしまうことになるが、仕方が無いと自分に言い聞かせ、答えを待った。

 しかし、美津子はすぐに簡潔に返事した。

「すぐ部屋に入って休んで。家の中のことは私がきちんとするから安心して。今はまず身体を大事にして。ホテルに泊まったらそこにご迷惑をかけるかもしれないので、家でゆっくりして。中村君に話して今日は早く帰る。あと1時間くらいで8時だし、お客様も少ないし、今日はあまり忙しくなかったから大丈夫よ」

 力強い言葉だった。弱っている私にはとても頼りになるパワーを感じた。同時に、本来なら自分がしっかりしなければならないところを逆に励ましてもらったことになるが、今に弱っている自分自身を自覚し、その気持ちに甘えることにした。

「分かった。じゃあ、部屋で寝る。今晩は悪いけど康典の部屋で休んでもらえないかな。一緒の部屋だともしものことがあるので」

「心配ありがとう。でも、今は自分のことだけ考えて。まずはしっかり休んで体力を少しでも回復させましょう。帰ったらおかゆを作ってあげるから、それを食べて。病院から薬はもらったの?」

「もらった。とりあえず解熱剤を中心に何種類かある。食後に服用と書いてあるので、おかゆを食べて服用する」

 美津子に話したことで気持ちが落ち着き、私は家の中に入り、そのままベッドに入った。


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