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体調不安 7

 私はベッドに横になった途端、強い睡魔に襲われた。安堵感からのことだろうが、意識がすぐに遠のいた。

 時間は分からないが、自然に目が覚めた。腕時計で時間を確認すると午後9時を少し回ったところだった。1時間少々眠っていたようだ。

 目を開けて少しボーっとしていると美津子が部屋に入ってきた。今日はマスク姿だ。もしかすると感染しているかもしれないし、単なる風邪であっても今は周囲のことを考えると引かないように注意しなければならない。自分たちの仕事は接客業であり、今回の宣言でも意識されている飲食関係なので余計に気を遣う。私がホテルに泊まろうかと思ったのも、そういうところを考えてのことだったが、こうやって改めて家族を顔を合わせると、その選択が正解だったかどうか再び疑問を持った。

 そんな時、私の気持ちを察してか、美津子が口を開いた。

「あら、思ったよりも元気そうね。やっぱり家で寝て正解よ。もしホテルだったらあなたの顔が見えないし、そのほうが心配だわ。帰った時、あなたが触れたかもしれないところはみんなきれいにアルコールで拭いたわ。こういうところはお店でやっていることと同じだから、心配しないで。電話でも言ったけど、今は身体を休ませるのが第一。まだ検査結果は出ていないんでしょう? 陽性か陰性か分からない内にあれこれ考えても仕方ないわ。明日になれば分かるんだから・・・。 もし陽性なら、保健所からきちんと指示が出るでしょうから、それに従えばいいじゃない。場合によっては私たちもPCR検査を受ければ良いわけだし、お店には矢島君や中村君、そしていろいろスタッフがいるじゃない。幸か不幸か今はお客様も少ないし、早仕舞いしなければならないのでもしもの時はちょっとの間休業にすれば良いわよ。この時期、休業のお知らせをしても同じようなところもあるので大丈夫。ここはハラを括って健康第一で行きましょう。ところで何か食べる? もうおかゆの用意はできているから、持ってこようか?」

 美津子は優しく、そして力強く話した。その様子に再び私は勇気づけられ、美津子の申し出通りおかゆをいただくことにした。薬の効果は分からないが、食事をしないことには服用できない。私はその旨を伝え、おかゆを持ってきてもらうことにした。

 3分も経たない内にトレイの上におかゆが入った茶碗、小皿に乗った香の物、ペットボトルの水とコップ、そして箸が乗っており、その雰囲気は店で出される食事のような感じだった。

 私はベッドの上に上半身だけを起こし、膝の上にトレイを置き、おかゆをいただいた。

「美味しい。ちょうどいい塩梅だ。出汁は何を使ったの?」

「あら、味は分かるの?」

「うん、病院で先生から聞かれたけれど、嗅覚・味覚は問題ない。倦怠感や頭痛はあるけれど、コロナの特徴は今のところ感じていない。先生の話だと、コロナに感染していても全員に嗅覚・味覚障害があるわけではない、ということなので安心してはいないけど・・・」

 お腹に何か入ったことでちょっと落ち着いたのか、少しプラス思考で話ができた。

「そう、それは良かったわ。コロナではなくても熱があったら身体はきついはずだから、今日はこのままゆっくり休んで。さっき康典には話しておいたから、私は電話の通りにする」

 美津子は私が食べ終わるまで待っていたが、食事が終わると食器をトレイの上に置き、コップとペットボトルはベッドの脇のテーブルに残したまま部屋を出て行った。


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