目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

体調不安 10

 午後2時を少し回った頃、保健所から電話があった。スマホに示された表示を見るとどこからかかってきたかすぐに分かるので確認できたが、すぐに出ることはできなかった。結果を聞きたいという気持ちと同時に、もし感染していたら、という不安が交錯していたのだ。本来私は、着信に気付いた時には可能な限りすぐに出ることにしている。仕事中やその他の事情で必ずしもすべてそうではないが、今回の場合は手元にあったし、状況的には出られないということではなかった。

 結果的に5~6回程度のコールの後、電話を取った。

「・・・もしもし、雨宮です」

 その声は弱々しかった。それが相手にどう聞こえたかは分からないが、元気そうに話すということはできなかった。そんな気を遣う余裕はなかったのだ。

「検査の結果ですが、陰性でした。その後の具合はいかがですか?」

 私は一瞬、時間が止まった感じがした。もちろん、陰性という結果に嬉しかったのは事実だが、これまで緊張しまくっていたためか、「陰性」という言葉に反応できなかったのだ。

「あのう、聞こえますか? 結果は陰性です。その後、いかがですか?」

 私の反応が無かったからか、担当者の人は同じことを再度告げた。

「・・・はい、聞こえています。陰性ですか。ありがとうございます。昨日病院でもらった薬が効いたのか、今朝は37度まで下がり、体調は良くなっている感じがしてます」

「そうですか。それは良かったですね。ではもう少しお休みになってください。早く元気になられることをお祈りしています。お大事に」

 私はその言葉に電話口でお辞儀をしながら再度お礼の言葉を口にした。

電話を切った後、私はしばらく放心状態だった。これまで私の頭の中で巡っていた様々な負の思いき無くなったけれど、その余韻が残っていたのだ。陰性であったことに素直に喜びたい自分と、もしもしの時のことを考えた自分、そして改めて健康の有難さを心の底から体験したという思いなどが複雑に交錯していたのだ。

 そんな時間が30分も経った頃だろうか、私は現実に戻った。心配してくれたみんなに陰性だったことを知らせないといけないことに気付いた。基本的なことだったが、この時の私にはそういったことを考える余裕もなかったのだ。

 その時、電話をかける順番をどうしよう、と思った。スマホを手に取り、ここで少し間ができたのだ。

 結果、最初は今回のことで感染する可能性がありながらきちんと対応してくれた美津子に電話した。

「もしもし、俺だけど、今、保健所から連絡があって、陰性だったよ」

 今度は朝と違い、明るい声だったことが自分でも分かった。また、陰性という話に美津子も喜んだ。そしてまだ完全に回復したわけでもないということから、2・3日仕事を休むようにとも言われた。私としては熱が下がればと思っていたが、矢島と相談して決める旨を告げ、電話を切った。その後すぐ、矢島にも電話を入れた。同じように結果を告げたら、美津子同様大変喜んでいた。仕事のことを話すと、これも美津子と同様、しばらく休養するように言われた。店のことは大丈夫と、改めて力強く言われたことに、頼れるチーフの存在を有難く感じていた。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?