この日の夜、美津子はいつもの時間より少しに帰宅した。昼過ぎの電話で現在の体調を伝え、仕事を優先してほしいと言ったからか昨日よりは遅いが、それでもいつもよりは早い帰宅になった。
「ただいま、調子はどう? 昨日より元気そうじゃない」
美津子は帰るなり、寝室に顔を出した。帰宅直後なのでまだマスク姿だが、私の顔を見て安心したような顔をしたのが分かった。
「お帰り。心配かけたね、申し訳ない」
私は素直に感謝した。美津子が帰った時にはまだ横になっていたが、この時は上半身を起こしていた。
「まだ寝ていたらいいじゃない。私、食事の用意をする。まだ食べてないでしょう? 何か食べたいものある?」
「いや、特別にはないけれど、さっぱりしたものが良いな」
「さっばりしたものか・・・。今日は暑いから、そうめんにする?」
「いいね、喉をするりと通りそうだ」
私がそう答えると、美津子は部屋を出て行った。
30分もすると、美津子はそうめんをトレイの上に乗せ、寝室に持ってきてくれた。その横には煮物を乗せた小皿があった。尋ねると、店から持ってきたという。夜、私の食事のメニューの一つにするためだったようだが、確かに私は煮物が好きだ。今の心境としては和風の食事が良かったので、そうめんに合わせてちょうど良い組み合わせになった。
そういうこともあり、私は出された食事をすぐにいただいた。その時の私の食べっぷりはいつもと変わらなかったようで、美津子も驚いていた。
「その様子を見るともう大丈夫そうね。昨日、8度の熱が出ていた人とは思えない。薬がよく効いたのね。そう言えばあなた、ちょっと調子が悪いくらいでは薬は飲まないし、今回は病院で頂いた薬だったので、余計に効いたのかしら。いずれにしても回復して良かったわ。でも、まだ体力は回復していないでしょうから、今晩もゆっくり休めるように、私は康典の部屋で休むわ。自分のリズムでゆっくりしてね」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。一応、今、体温を測るから、ちょっと待っていて」
私はそう言い、体温計を脇の下に挟んだ。そこで出た数字は、平熱だった。そのことを告げると美津子も嬉しそうだった。
それで美津子が部屋を出ていく前に、今回のことで考えたことを改めて少し話したいと伝え、明日の朝食の時にそうしようと告げた。
もちろん美津子も話を聞きたいと言って、後は「お休み」の言葉が続き、部屋を出て行った。私は薬を飲み、そのまま身体を横にした。