次の朝、私はいつものような感じで起きることができた。時間が少々早かったが、ダイニングのほうに行き、自分でコーヒーを入れていた。いつもの行動だが、もしコロナに感染していたら、このコーヒーの味や香りも感じなかっただろうということを思いながら、一口飲んだ。もう何日も飲んでいないような感じがしたが、いつもの味に一安心した。
15分くらい経った時だっただろうか、美津子がやってきた。
「あら、おはよう。早く起きたの? 本当に元気になったのね。良かったわ。これから朝食の準備をするけど、トーストで良いかしら。それとも昨晩のようにさっぱりしたものにする?」
「いや、それでいいよ。今朝は何でも食べられる気がしているし、いつもの生活に戻していかなければならないしね。何か手伝おうか?」
「大丈夫よ。もともと一人で作るつもりでいたから。あなたはそのまま座っていて」
美津子はそういって台所で準備をしている。私は自分が入れたコーヒーのお代わりをしてそのまま飲んでいた。
しばらくすると、康典も自分の部屋から出てきた。2晩続けて美津子と一緒だったから、行動パターンが同じようになり、朝食時間だったのでダイニングにやってきたのだ。
「おはよう。もう元気になった? 良かったね。PCR検査、陰性だったんでしょう。もし陽性だったら、濃厚接触者になるだろうから、みんな一緒に隔離だったね」
こういったことも陰性だったからこそ言える言葉で、改めて今回のことはいろいろなことが勉強になった。
そうこうしているうちに朝食の準備ができ、テーブルにはベーコンエッグ、サラダ、オレンジジュース、トーストが並んだ。もっとも、トーストについては美津子と話した後、私が準備し、他のメニューが出来上がる頃を見計らって焼いていた。同じメニューでも温かいうちに食べたほうがおいしいものについては、なるべく時間を合わせようという意識が働く。これも飲食店という商売をやっている性(さが)からのことだろうが、自然にそういう流れになる。
だから、食事のタイミングも冷めないようにしながらいただくことになるが、そこでは簡単に私が体験したことを話した。仕事に関してのことは康典には分からないだろうから、コロナに絡んだ話に終始した。
「今回の熱は一般的な風邪からなんだろうけど、時期が時期だけに熱が出た時は驚いた。精神的なストレスが発熱にも関係していたかもしれないけれど、あの感じだったらコロナを疑っても仕方ないな。でも、味覚や嗅覚の問題はなかったので違うかなとは思っていたけれど、症状は人それぞれのようだからやっぱり検査結果が出るまでは心配だった。そしてもし、後遺症として味覚・嗅覚の障害が出た場合、飲食店という仕事には致命的だから、これも心配した。生活の基本になる仕事だから、今後のことも含めて悩んだよ。だから陰性、という結果を聞いた時には一気に安堵した。もしかするとそのことが精神的にもプラスに作用して、薬の効果と合わせて早く熱も下がったのかな。身体のことは分からないけれど、結果的に良かったよ、回復して」
私の話に2人は頷いていた。食事中、そのことに絡んで話が弾んだが、食べ終わると康典は出かける準備があると言って自室に戻った。