目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

回復 7

 その夜、私は1号店で矢島に話したことを美津子にも話した。今回の私の健康問題で美津子も似たようなことを考えていたらしく、基本的なことについては賛成してくれた。

 ただ、具体的なことについては全く考えがまとまっていないため、そこから先の話には至らなかった。

 しかし、今回のことで会社や店の司令塔になるべき自分たちの立場を改めて実感したことになるので、美津子に現在の体調のことを尋ねた。

「私の体調? 少なくともコロナの症状は出ていないわ。その点は安心ね。でも、店や家の中はエアコンが効いているので涼しいけれど、一歩外に出ればすごく暑いでしょう。この気温差は身体に堪えるわね」

「そう。奥田先生もおっしゃっていたけれど、気温差による肉体的なストレスも体調に関係するらしいよ。自律神経が狂いやすいそうだけど、その調節がうまくいっていない場合、抵抗力も落ちるらしいし、俺のケースも大なり小なりそういうことも関係していたかもな。自分としてはコロナのことで店のことが気になり、精神的なところからばかりと思っていたけれど、肉体的なストレスも問題だそうだ。これまで肉体的なストレスというと、腰や肩ばかり気にしていたけれど、気温の差も身体に悪影響を与えるんだよな。だけどこればかりは自然現象に絡むことだからどうしようもないし、そうなるとこれまで口だけのことが多かったが、体調に問題があると感じる時だけでなく、そうでない内から定期的な身体のメンテナンスをしなければならないだろうな。以前話していた通り、やっぱり奥田先生のところに体調が良くても通おうよ。俺たちはみんなの仕事を守る責任があるしさ」

「そうね。それで今できることとしては、矢島君や中村君にも月1回でも良いので通ってもらおうか。もちろん、施術代については会社持ちということで」

「良いんじゃない。さっき具体的なアイデアは出なかったけれど、今出たね。2人とも若いってことをいつも強調しているけれど、だからこそ今、転ばぬ先の杖的な意識で健康管理をやってもらえばこれからもいざという時、頼りになるしね」

 私たちは顔を見合わせ、良いアイデアが出たことを喜んだ。自分たちが信頼している先生に体調管理をお願いし、それが結果的にお店の活性化につながれば、今回の私が病気したことも教訓として生きてくる。物事の転機には何らかの出来事が必要だが、今2人で話しているうちにそれが具体的な形になったような気がしていた。

「では、そういうことで美津子、明日か明後日くらいに奥田先生のところに行ってきたら? 思い立ったら吉日ということで、さっそく実践しよう。そして矢島君と中村君には明日、それぞれ店で話そう。それでとう?」

 私の提案に美津子は二つ返事でOKだった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?