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ギックリ腰 1

 ミーティングを3日後に控えた日、ランチタイムの後、夜の部の準備をしながら私は矢島と雑談していた。

「どう? 準備、進んでいる?」

「はい、中村君も同じようにアイデアを考えていると聞いているので、いろいろ調べて、良いミーティングができるようにと思っています。詳しくはその時にお話ししたいと思いますので、待っていてください」

 その言葉には何か自信があるように思える感じを含んでいた。

「そう、楽しみだね。期待しているよ」

 今、とても気になるところではあるが、こういうことはじっくり練ってこそ深みが出る。私もそのことは知っているつもりだからこそ、聞きたい気持ちを抑えていた。ここで話を聞いてしまえば矢島の意識も下がるかもしれないし、当日、中村としっかり意見を交わす時まで考えているアイデアは聞かないことにした。

 そのことを確認したら、後は準備に専念することにした。居酒屋の場合、裏方の仕事は結構力を使う。ビールなどの飲み物が重いのだ。店内で提供する時のように1本2本くらいなら何も問題はないが、ケースで運ぶ時は注意しないと腰を痛めることがある。

 そういうことは十分承知していたが、毎日の事でもあるので私は奥の部屋から厨房にある冷蔵庫にビールを運ぼうとしていた。

「店長、そういうことは俺がやりますよ」

 矢島が私に言った。

 しかし、ビールを置いているところにいるのは私だし、そのつもりで箱に手をかけた。

 いつもの感じで持ち上げようとしたが、ちょっとタイミングが狂ったのか、瞬間的に腰に大きくその重さがもろにかかってしまったようで、強烈な痛みが襲った。そのため私はその場に座り込み、動けなくなった。矢島は厨房にいたので、私の様子には気付かなかった。

「矢島君、ちょっと来てくれ」

 私は慌てた声で矢島を呼んだ。何があったのか分からない矢島はすぐに奥の部屋にやってきて、すぐに駆け寄ってきた。

「店長、どうしました?」

 矢島は驚いた声で私に訊ねた。もちろん、座り込んでいる様子を見て腰を痛めたということはすぐに想像したようだ。

「ギックリ腰ですか?」

「そうだ、ビールを運ぼうとした時に腰を痛めた」

「だから俺がやるって言ったんです。店長は先日体調を壊したから、まだこういった力仕事は自分の仕事だと思っていたんですが、済みません。さっきの言葉を聞かずに俺がやっていれば良かったのに」


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