私は激痛のためにあまりしゃべれない。動けずにいる私に矢島が言った。
「近所に整形の病院がありますので、すぐ行きましょう。俺が背負います」
矢島はそう言って私の横に近づいた。
だが、その時点ではまだ背負ってもらうことすら難しいような感じだった。
「矢島君、ありがとう。まだ全然動けない感じだから、もうしばらくこのままにしておいてくれ。少しでも痛みが引いたらお願いするよ。その間、悪いけど2号店に連絡してくれないか? 先日の体調不良に続いて今度はギックリ腰になり、みんなに迷惑をかけて済まない」
今、私にできるのは矢島や周りの人たちに対する謝罪の気持ちを言葉にするくらいだ。そしてこのことを美津子に知ってもらうことで、先日のことに続いて全体をサポートしてもらうようお願いすることだけだった。
「もしもし、1号店の矢島ですが、副社長、お願いできますか?」
矢島は2号店に電話をしたが、アルバイトスタッフが出たため、美津子に代わってもらうようお願いした。何の電話か分からない美津子は用件を尋ねた。
「代わりました。あら、矢島君、何かあった?」
美津子は普通の感じで電話に出た。
「はい、実は店長がビールのケースを持った時、ギックリ腰になられて、今、動けないんです。まだ激痛のために何もできない状態ですが、痛みが引いたら近くの整形の病院に背負って行こうと思っています。今、夜の部の準備をしていたところですが、状況次第で俺がご自宅までお連れしようと思っていますが、良いでしょうか?」
思ってもいなかった矢島からの話に美津子は驚いたが、矢島の判断は正しいと考えた。
「矢島君、お店の方は臨時休業にしても良いので、今の話の通りにしてちょうだい。中村君とも話し、場合によっては私が後で病院に行き、対応することもできるから、その時はいつも通り店を空けてください。もう少ししてから電話します」
美津子はそう言って電話を切った。
矢島は私の横で電話したため、話の内容は大体把握していた。改めて内容を確認したが、2号店からの電話を待ち、うまく対応することをお願いした。多少の時間の経過が幸いしたのか、少し痛みが薄らいだので、美津子からの電話がかかってくるまで矢島と少し会話した。
「いろいろ心配かけて済まない。ギックリ腰、実は初めてではないんだ。昔経験していて、その時は治るまで1ヵ月近くかかった。その経験があったので整体に通い始め、体調管理に努めていたんだが、やっぱり先日身体を壊してまだ本調子に戻っていなかったのかもしれないな」
「そうだったんですか。それなら今度はしっかり治し、腰を労わってください。その間、俺が頑張りますよ。先日のことがあって俺も何か覚醒したみたいなので、任せてください」
矢島は力強く言った。私はこの時、その言葉に変な誇張は感じられず、この男になら任せられる、と感じていた。