5分ほど経った。店の電話が鳴り、矢島が出たが美津子からの連絡だった。
2号店の準備については中村に任せることができるので、美津子が私を病院に連れていく、ということになった。これで1号店は矢島に任せて開くことができるが、先日から引き続き、矢島には頑張ってもらうことになる。先日に続き、同じように私が最前線に立てなくなることについて申し訳なく思うが、矢島は嫌な顔一つしない。それどころか、逆にやる気に満ちているといった感じで、その表情の裏には自分が1号店を切り盛りしなければならない、といった強い意志を感じる。
もしかすると、私が続けて体調を壊さなければこのような感じにはならなかったかもしれないが、現況で力強い仲間ができたような実感はこういう時だからこそ有難い。
というより、以前考えていた3号店、あるいはフランチャイズとしてオープンする時、矢島は最良の人材になるのでは、とも思えてきた。
私自身、連続した体調の問題から多少気弱になっているところもあるかもしれないが、頼れる存在が美津子以外にもきちんと存在していたということに気付かされることにもなった。
もちろん、そういうことを思っていても今、それを矢島に話すことは無い。こういうことは話をするタイミングもあるし、仮に話すとしても時間をかけてじっくりとということが必要だ。本人の気持ちもあるし、私がギックリ腰になっている時に話しても、気弱になったから、といった誤解につながっても困る。しっかりした考えに基づき話すといったことが矢島に対する礼儀では、ということも考えているので、この件は美津子にも相談してみることにした。
電話から30分ほど経ったころ、美津子が1号店にやってきた。矢島が入り口のところに行き、美津子を迎えた。
「あっ、矢島君。また心配かけてごめんね。今日は私が主人を病院に連れて行くので、いつも通り、仕事してね。最近はこんな感じで負担をかけてばかりになったけれど、何か埋め合わせするね」
「いえいえ、お気持ちだけで。でも、この前はコロナかと思うような状態だったし、今回はギックリ腰と身体が心配ですね。少しお休みになってはいかがですか? おかげさまで何とかやっていく自信のようなものができたかな、という感じですので、任せてください」
「ありがとう。腰のことはまだ様子が分からないけれど、昔、同じような経験をした時、治るまで1ヶ月ほどかかったといったことを聞いているから、ちょっと長くなるかもしれないわね。どうしても重いものを持ったりするので、そういうことで腰に負荷がかかっていたのかな。でも、同じことは矢島君にも言えるから、今回の問題は自分にも起こるかもしれない、ということで気を付けていてね。ここであなたの体調がおかしくなったら、1号店はつぶれるわ。若いからと言って無理は厳禁よ」
「はい、分かりました。ありがとうございます。それで店長ですが、奥の座敷の方で休んでいただいています」
美津子は矢島からそう聞き、私のほうに近づいてきた。
「大変だったわね。2号店は中村君に任せてあるから、今日はこれから私が病院に一緒に行くけど、歩ける?」
痛みはまだしっかり残っているが、さっきよりは軽くなっている。だが、立ったり歩いたりできるかは別だ。かといって救急車を呼ぶほどのことは無いし、そうなると周囲の目もある。コロナの感染者数が増えている今、変な噂のネタになる可能性もある。幸い、整形外科のクリニックは歩いて10分ほどのところにある。今回はそれ以上かかるだろうが、美津子にサポートしてもらえば休みながら歩いて何とかなるのでは、という感じだ。痛みの感じがもう少し軽くなった時を見て店を出ようと思った。