クマよけのベルの音を聞きつけた村人に助けられ、エリオットたちは山を下りた。
そこには、クマ狩りに出かけた村人たちのお昼の準備をしているサラ達が待っていた。
ロックの肩を借りて帰って来たエリオットを見て、サラは手に持っていた皿を落として駆け出した。
「エリオット! 大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ。体中が痛いのと、太ももが切れただけだ。あと、もう体力の限界」
「それは大丈夫って言わないの! でも、生きて帰って来てよかった」
エリオットが血だらけ泥だらけなのもいとわず、サラはエリオットを支えた。
サラとロックに支えられたエリオットは、椅子に座らされる。
そのあと、クマ狩りに参加していた村人が次々に下山して来ると、村で待ち受けていた女性たちが悲鳴を上げた。
そこには男が数人で片目の子クマを引っ張って来たからだった。
それを見たサラはエリオットに聞いた
「どうしたの? あの子グマは……」
「ああ、ウチで飼うことにした」
「あらそう……」
エリオットはサラの答えに拍子抜けした。犬や猫を飼うというならまだしも、クマを飼うと言ってあっさりとOKされるとは思わなかった。
自分で言っておいてなんだが、サラも豪胆だな。
エリオットがそんなことを考えていると、やっと言葉の意味を理解したサラは目を大きく見開いてエリオットに言った。
「え! あれを飼うの? クマを……ウチで!?」
「ああ、そうだ。親グマは俺が殺した。だから、そのままにしておくわけにもいかないだろう」
「え、エリオットがクマを殺したの?」
サラはてっきりエリオットはクマを追い払った時に傷を受けたのだと思っていた。まさか、いくらエリオットとは言えクマを倒せるとは思っていなかったのだ。
だからサラは驚きながら、エリオットの足の傷を見た。
「ひどい傷じゃない。無茶をしないでって言ったわよね」
「姉さん、兄貴はボクを助けるために、無茶をしてくれたんだ」
「姉さんって誰よ……人を助けるために自分を犠牲にしたの?」
サラはエリオットの破れたズボンをハサミで切ると、泥と血で固まった傷を見てあきれていた。
素人のサラが見てもひどい傷だと分かった。
サラはある瓶を手にして、エリオットに言った。
「ちょっとしみるけど、我慢して」
「ああ、分かった」
エリオットの了解を取って、瓶の中の液を傷口に振りかけた。
「ぐわぁぁぁ!!!……何をかけたんだ?」
エリオットはクマと戦った時よりもひどい声を上げた。
それに対して、サラは顔を上げることなく、手当てを続けながら答えた。
「お酢よ」
「あの腐った水かぁぁぁ」
「お酢は傷を綺麗にする効果もあるのよ。ちょっと染みるけどね」
「ちょっとどころじゃないぞ!」
「それは私の言うことを聞かずに無茶をしたエリオットに対する罰よ。我慢して」
そう言って顔を上げたサラの瞳に涙が浮かんでいるのを見たエリオットは、何も言えなくなった。
サラがエリオットに包帯を巻き終えたころ、子グマの方で騒ぎが起きていた。