サラたちがアリスの部屋に着いた時、アリスは上半身を起こして本を読んでいた。その姿は深窓の令嬢という言葉が似合うたたずまいだった。
アリスはサラたちを見止めると本をサイドディスクに置いた。
するとサラはアリスに声をかけた。
「起きていて大丈夫なの?」
「ええ、熱も下がったから大丈夫よ」
「本当に? 無理していない? アリスちゃんは昔から無理するんだから」
「ふふふ、それはサラを見ているからじゃないの? サラの方こそ大丈夫なの?」
「私は大丈夫よ」
「嘘ばっかり……ほら、サラだって、本当はまだ疲れているのに、そう言うでしょう」
「私はお姉ちゃんだから良いのよ」
「じゃあ、アリスは妹だからいいじゃない」
「二人は似ていないようで、そっくりなんだな?」
言い合う二人を見て、エリオットは笑いながら言った。
すると、サラとアリスは同時にエリオットに向かって言った。
「そんなことないわ」
「そんなことないわよ」
「何言っているのよ。だいたい全然似てないわよ。私はアリスちゃんみたいに綺麗じゃないし、スタイルも良くないもの」
「そうよ、似ていないわよ。アリスはサラみたいに頭も良くないし、文才もないもの」
お互いがお互いを褒めるように、二人は違うと主張する。それを微笑ましく見ていたエリオットは言った。
「そっくりだな」
「そ、そうかしら?」
「そう?」
そう言われて、互いに照れる姉妹。
ひとしきり照れた後、アリスは真剣な顔で言った。
「サラ、助けてくれてありがとう」
「ううん、助かってくれてありがとう。アリスちゃんが苦しんでいる時に私だけ、平穏な生活をしていてごめんね」
「何言っているのよ。アリスが病気になったのは、アリスのせいだから、サラが謝る必要なんてないのよ」
「わかったわ……でも、アリスちゃん。ひとつだけ言わせて」
「いいわよ。聞いてあげる」
サラは一つ大きく深呼吸して言った。
「どうして、病気になったことをお姉ちゃんに言わなかったの! どうせアリスちゃんのことだから、私に心配させたくないとか考えていたんでしょう。いつもはわがままなのに、こういうところだけ、変に気を遣うんだから! そう言うときこそ、ちゃんと言って!」
「ご、ごめんなさい」
あまりの剣幕にアリスは素直に謝る。その勢いは、言われていないエリオットさえ、気圧されるほどだった。いつもは優しいサラなだけに、アリスとエリオットは二人して、シュンとする。
そんなアリスを見たサラは、息を大きく吐いた後、ぎゅっと抱きしめた。
「ほんとうに……本当に間に合って良かった。来る間、ずっと間に合わないんじゃないかって不安だったのよ」
「ごめんなさい……ありがとう、お姉ちゃん」
アリスはサラの胸の中で涙を流した。抱きしめるサラの目にも光る物が頬を伝わっていた。
こうして姉妹はやっと本当の再会を果たしたのだった。
ひとしきり再会をかみしめたアリスは、サラに疑問を投げかけた。
「ねえ、サラ。どうしてアリスが病気だって分かったの? アリスは連絡しなかったのに」
「それはね……」
サラは父親から来た手紙のことを説明した。アリスが病気になり、医者にかかるお金が必要だと連絡が来たと。
すると、アリスは少し考えて言った。
「お父様、武具に手を出したのね」
即座にその結論に達するアリスを見て、エリオットはやはり二人ともファーメン家の人間だと、つくづく思い知った。二人ともファーメン家の拝金主義を嫌っていながらも、その考え方はしっかりと受け継いでいる。現にアリスはサラの小説を使って相当な利益を得ている。つまり、サラも金儲けをしようと思えば、十分可能なのだろう。
エリオットがそんなことを考えていると、サラは言った。
「でも、お父様が損をしたおかげで、アリスちゃんの容態を知られたから良かったわ」
「そうね。全くアリスの身体を心配しての行動じゃなかったけどね」
そう言って、アリスはいたずらっ子ぽい笑顔をサラに向けた。
サラもつられて笑い、二人の笑い声が部屋に響く。
そして二人の笑いが収まった後、エリオットはアリスに言った。
「ところで、アリス。お願いがあるんだ」
「何? エリー、サラじゃなくって、アリスが良くなったの? でもごめんなさい。アリスはね、誰か一人の物になる気は無いの。でも、決して誤解しないで。アリスはエリーのことが嫌いってわけじゃないの。だから落ち込まないでね。だからいつでもアリスに会いに来て良いのよ」
「……本当に元気になったんだな、アリス」
「なに? それとも、やっとサラと結婚する気になったの? ええ、いいわ。アリスが結婚式の準備をしてあげる。でも、ごめんね。ファーメン家の人は呼ばない方が良いわよ。本当に親しい人だけ呼んで、小さな結婚式が良いわね。大丈夫よ。小さいからこそ隅々まで気を使ったステキな結婚式にしてあげるわよ。それこそファーメン家のお金を山のように注いであげるわ。そうだ! フラワーガールはハンナちゃんにお願いしましょう。真っ白いフリフリのレースを付けたドレスなんて、もう、最高に可愛いわよ。それにサラのウエディングドレスも極上に綺麗に決まっているわよ。お色直しは最低三回ね」
うっとりとハンナとサラのドレス姿を妄想するアリスの肩を、エリオットはそっと叩いた。
「とりあえず、一旦落ち着いて俺の話を聞いてくれ。そうでないと、二度とハンナに会わせないぞ」
アリスは真剣な顔になった。
「それで、アリスにお願いって何?」