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第104話 ベラルギー王国

「何を勝手なことをしているんですか!?」


 ベラルギー王国に入ってから、気が抜けたと同時に先ほどの係員とのやり取りを思い出したピエールがサラに文句を言った。


「だって、小麦の産地を聞かれて困っていたから……」

「全く、たまたま産地を知っていたからよかったものを!」


 反論するサラに、ローレルも近づいて来て注意をする。

 しかし、当のサラは気にする様子もなく答える。


「後ろの小麦がモンドレー産かどうかなんて、私は知らないわよ」

「なっ! 何だって……それは適当なことを言ったのか!?」

「何を言っているのよ、あなたたち、オーランド王国のどこが小麦の名産地か知らないでしょう。オーランド王国の小麦の半数以上はモンドレー産なの。だから、そんなに低い賭けじゃないし、結構良質だから、モンドレー産で間違いないと思うのよ。今年は豊作って言っていたら、特にね」


 そう言われて、ローレルもピエールも反論しようがなかった。

 彼らはあくまで軍に属する物であり、農業に詳しくない。

 しかし、軍属の長としてローレルは苦言を呈する。


「しかし、勝手な行動は慎め。お前は光の聖女を見つけるまでとはいえ、私の指揮下にいることを肝に銘じて置け」

「え!? 私ってただの協力者じゃなくて、ローレルさんの部下扱いですか?」

「その方がお前も都合が良いだろう。大体、この国に頼るツテは無いだろう。オレの部下であれば、給料も出せるし、宿舎も使える。ただし、その分、働いてもらうがな」


 ローレルの言葉にサラは今の自分の状況を再確認する。

 宿なし、金なし、ツテなし、職なし。

 思わず笑ってしまいそうになるほど、無い無いづくしである。

 ローレルの言う通り、指揮下に入ればローレルにサラの保護義務が生まれる。

 しかし、ローレルの考えはそれだけではなかった。


「それにお前は光の聖女を見つける大事なカギだ。逃げられでもしたら大変だ。だから、おまえはオレの屋敷に住んでもらう」


 ローレルは隊長と呼ばれているが、その隊の規模も地位もサラは知らない。知らないが、軍の隊長クラスになると屋敷が持てるのだと、素直に感心していた。

 その屋敷を見るまでは。


 検問所から二日ほど移動して、ベラルギー王国の王都に到着した。

 オーランド王国と比べると、規模は小さかったが、活気にあふれた街並みにサラの心は踊った。


「これが潮のかおりなのね」


 サラが口にしたように、ベラルギー王国の王都ブッセは海に面している。

 そのため、ブッセでは漁がさかんだった。

 ブッセに入ってから、ローレルとサラは馬車に乗り換えて移動していた。


「ここまで来るのに、あまり畑を見かけなかったから、この国の人ってどうやって暮らしているのかと思ったら、魚を捕って暮らしているのね」

「ああ、そうだ。内陸で肥沃な平地を持つオーランド王国と違い、この国は穀物が不足している。今回、光の聖女の情報収集とともに、小麦や米を買い付けたのは、偽装工作だけではなく、純粋に輸入をすると言う意味合いもあったのだ」

「その割には産地の一つも知らないのね」

「小麦は小麦だ。それ以上でもそれ以下でもないだろう」


 そう言い切るローレルに料理好きのサラは噛みついた。


「ねえ、ローレルさん、あなた、料理をしたことがないでしょう。料理はその調理方法も大事ですが、そもそも材料が良くなければ美味し物は作れないのですよ」

「腹に入れば一緒だろう」

「何を言っているの? 質の悪い肉と質の良い肉、調理して美味しいのはどちらか分かるでしょう」

「まあ、そうだな。カビの生えた肉なんてどう料理したって一緒だろうからな」


 ローレルは興味なさそうにそう言い切った。

 それが、サラのスイッチを入れてしまうとは知らずに……


「ローレルさん、私は質の良し悪しを言っているのです。カビが生えている肉がマズイ? ちゃんと熟成させたお肉は新鮮なお肉とはまた、違った味わいがあるのです! 今度作ってあげますから食べてみてください!」


 ローレルは、はじめて会った時の生気のない女性とは思えない、目をギラギラと輝かせ料理の話をするサラに気圧された。


「わかった、わかった。しかし、オレに味の良し悪しを求めるなよ。そう言うのには興味がない……それに、今はそれどころじゃないからな」

「興味がないとしても、美味しい物を食べるのは楽しいですよ……それで、何か問題でも抱えているのですか?」

「……お前には関係ないことだ。おい、着いたぞ」


 そう言われてサラが見た先には大きな屋敷があった。


「え! ベラルギー王国の隊長さんってこんなにお金持ちなの?」

「そんなわけないだろう。おい、入るぞ」


 そう言うと、馬車は門をくぐり、玄関横に止められた。

 すると中から、執事とともに数人のメイドが出迎え、馬車のドアを開いた。


「帰りなさいませ、ローレンス殿下」


 メイドたちは一糸乱れぬ声と動きでローレルを出迎えた。

 それは昨日今日始めたものではないことはサラにも分かった。

 それよりも……


「ローレルさん」

「なんだ?」


 サラはローレルの後ろに続きながら、疑問を投げかける。


「もしかして、ローレルさんってローレンス王子なのですか?」


 サラはベラルギー王国でローレンス殿下と呼ばれる人物を一人知っている。

 ベラルギー王国の王には、四人の子息息女がいる。

 その三男の名がローレンスである。


「王の子と言う意味ならば、そうだ」

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