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第115話 王家の呼び出し

 リーゼロッテとサラが話をしている後ろから、一人の男性が現れた。

 鍛えられた身体にきっちり合わせられた仕立ての良いテールコートを着て立っていた。髪もきっちりアップでセットされている。ワイルドさを残してはいるなかなかのイケメンだった。

 その男性を見たサラの口から言葉がこぼれた。


「誰?」

「おい、オレだ。見て分かるだろう」

「え! ローレルなの?」

「他に誰がいるんだ? リーゼに言われてこんな格好をしたんだ。笑うなよ」


 そう言ってローレルは不機嫌そうな顔をする。


「笑ったりしないわよ。よく似合っているわよ。似合いすぎてびっくりしているだけ」


 サラにそう言われて、ローレルはホッと顔を緩める。


「そうか、なら良かった。それよりも、サラがオレの婚約者と言うのは、どういうことだ?」


 ローレルはリーゼロッテに詰め寄る。

 しかし、リーゼロッテは涼しい顔をして答える。


「あら、舞踏会に出るのに、パートナーがいないなんてサラが可哀想だと思いませんか? だったら、お兄様を婚約者とした方が、みなさん、サラのパートナーがお兄様だと受け入れやすいと思っての配慮ですよ」


 いきなり、どこの誰とも知らないサラがこのような場所に現れても、みんな遠巻きに噂をするだけだろう。サラを孤立させないための配慮と言うことで、リーゼロッテは押し切るらしい。

 リーゼロッテに甘いローレルは、何か言いかけて諦めた。


「ああ、分かった。それで、オレはサラをエスコートすればいいのか?」

「ええ、お願いしますわ、お兄様。せっかくのサラの社交界デビューですもの、パートナーがいなくては様になりませんわ。しっかり、エスコートしてくださいね」

「仕方がない。できるだけやってみる」


 そう言ってローレルはサラが腕を組みやすいように、エスコートポーズをする。

 そんな二人のやり取りを見ながら、サラは困ったように言った。


「もーう、ここまで準備をされては二人の顔に泥を塗っちゃうから従うけど、もう二度と止めてよね」

「ふふふ、ごめんなさい。サラ、大好きよ。さあ、みんなが待っているわ」


 そう言ってリーゼはサラに抱きついた後、そっとローレルの方に押しやった。

 サラは、いつもと違うローレルの腕を取った。


「今日は一日よろしくね」

「あまり、オレにダンスの腕を期待するなよ」

「大丈夫よ。笑ったりしないから」


 サラとローレルは盛大な拍手とともに迎え入れられたと同時に、音楽が流れ始めた。

 ローレルは右手を後ろ手に、左手を差し出した。


「……」


 黙っているローレルに、サラはあきれた声を出した。


「なにか、気の利いた誘い文句は無いのですか?」

「うるさい! オレにそんなものを求めるな。この場にいるのだけでも不釣り合いだというのに」


 そう言って困っているローレルを見て、サラは可愛いと思ってしまった。

 そして、エリオットなら、気の利いた風なことを言ってハンナに突っ込まれているのだろうなとも思い描いた。


「おい、どうした」

「いえ、何でもありません。それではお手を……」

「それはオレのセリフだろう」


 そう言いながらサラの手を取ったローレルは、ステップを踏み始めた。

 音楽とローレルのステップに合わせて、サラもステップを踏む。

 村の収穫祭で流れた旅の楽団とは違う、洗練された音楽。

 周りの令息令嬢の美しいダンス。

 その中でもローレルの力強さとそれを陰で支え、バランスを取るサラの二人のダンスは今日の主役にふさわしかった。

(エリオットとは競うように踊っていたのが懐かしい。周りの目なんて気にせず、二人だけのダンス。楽しかった。エリオットったら、私が踊れると分かるとどんどん難度を上げて……)

 そんなサラの思いを誰も知らず、ブッセの発明者で光の聖女。そしてローレンス第三王子の婚約者としてのサラのお披露目会はつつがなく終了したのだった。


 お披露目会は問題ではなかった。


 翌日、サラ、リーゼロッテ、ローレルの三人は王宮に呼び出されていた。

 王宮の会議室に通された。

 そこは普段大臣たちと国政を相談する場である。

 広いテーブルに多くの椅子は長時間座っていても疲れない、ふかふかだった。

 そこに三人は座っていた。


「リーゼ、ローレル、なんで私はここに呼ばれているの?」

「あー、すまん」


 ローレルは額に皺を寄せ、困った声を出す。


「先日の舞踏会で、サラのことを光の聖女で、オレの婚約者と紹介しただろう」

「ええ、そう紹介されるって私は知らなかったけどね」

「まあ、それは本当にすまない。そして、今回呼ばれたのはそれが原因だ」

「どういうこと?」


 ローレルは口を閉じてずっと下を向いているリーゼロッテを見た。

 サラはつられてリーゼロッテを見ると、青くなっていた。


「リーゼ、大丈夫? 具合でも悪いの?」


 サラは光の聖女の目で見たが、悪い菌は見当たらなかった。


「だ、大丈夫ですわ」

「でも。顔が真っ青よ」

「まあ、リーゼの気持ちも分かるが……それでだな……」


 ローレルがそう言った時、守衛が王の到来を告げた。


「国王陛下が入室されます!」


 その声に三人は立ち上がり、ベラルギー王国のトップである白髪の老人に頭を下げて出迎えた。

その老人こそが、レオパルド国王陛下である。

 その後ろに銀色の髪で背の高い男は三人を見ると目を細めた。

 銀色の男の名はフィリップ・ベラルギー。ベラルギー王国の第一王子。

そしてその後ろにもう一人。青く長い髪をたなびかせている男はサラに笑いかけてきた。

 青い髪の男は第二王子のアルベルト・ベラルギーであった。


 国王が席に着くまでに、ローレルが三人をサラに説明した。

 三人が席に着くと、国王はフィリップ第一王子に目配せをする。

 するとフィリップは口を開いた。


「まずは、光の聖女を名乗る貴女の名前を聞こうか」

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