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第117話 サラとローレルの婚約話

「マーベラス!」


 一通りサラの説明を聞き終えたアルベルトが叫んだ。


「光の聖女というものが、どんな美女か気になって見に来て、がっかりしたが、これは美しい。おい、ローレンス。これ、ボクにちょうだい。そのぴかぴかの奴って、ずっと出せる? それを絵に描いてみたい!」

「アルベルト様、サラは物ではありません」


 ローレルはきっぱりと断った。

 その言葉にアルベルトが噛みついた。


「おい、平民の子がボクに意見をするつもりか?」


 そのアルベルトの言葉にサラは違和感を覚えた。ローレルは自分のことを王の子だといった。そしてリーゼロッテもローレルのことを兄と言っていた。それなのにアルベルトはローレルのことを平民の子だと言い放つ。

 そんなサラの疑問はすぐに解けた。


「確かに母は平民でしたが、そのことは今、関係ないでしょう」

「ふん、そこの聖女と結婚して王位を狙っているくせに、何が関係ないんだ!」

「そんなことは考えていない。オレはこの王家の盾となり、この国を守っていきたいだけです」


 ローレルは興奮して、立ち上がって、そう主張した。

 興奮するローレルを落ち着かせるように、フィリップが言った。


「今回集まってもらったのは、光の聖女の真偽とローレンスお前の考えの確認だ。そちらのサラ殿が光の聖女だということは先ほど分かった。だから、議題を移らせてもらう。ローレンス、お前は光の聖女と結婚をして何をしようとしている」

「それ自体が誤解だ」

「ローレンス兄様は悪くありません。悪いのはこのリーゼロッテです」


 フィリップの言葉にローレルとリーゼロッテが同時に反論する。

 そんな二人の言葉にフィリップはため息交じりに説明を求める。


「ローレンス、アルベルトの言う通り、光の聖女と結婚するということはどういうことか分かった上での、あの婚約発表だろうな。一応、低いとはいえお前も王位継承権を持っている。しかし、お前は政治には興味が無いということで軍部所属している。将軍でないとはいえ、軍事力と光の聖女のネームバリューを手に入れたお前は、王位簒奪おういさんだつの疑いありと我々は見ているのだ。回答次第では貴様をこの場で拘束する用意もある」


 この会議室には、出入口が一か所しかない。おそらく部屋の外には武装した兵が何人も待ち構えているのだろう。

 ローレルが強いとはいえ、手には武器もなく多数の兵を相手に勝てるはずもなかった。

 会議室の中に緊張が走る。


「まず、俺はサラと結婚するつもりもなく、王位に就く気もない。俺は母とリーゼが愛するこの国が平和であることを願っている。それを前提に俺たちとサラのことを説明させてほしい」

「……わかった。我々もそれを望んでいる」


 ローレルのまっすぐな瞳にフィリップは答えた。

 そして、ローレルはリーゼロッテの病気を治すため、光の聖女を求めてオーランド王国に侵入したこと。そこでサラに出会い、ベラルギー王国に連れてきたこと。そしてリーゼロッテの病気を治し、リーゼロッテとサラが友人関係になった。

 そしてお菓子を作り、ブッセという名前を付け、その御披露目に先日の舞踏会を開いたことを包み隠さず話した。

 一通り、話し終えた後、リーゼロッテが深々と頭を下げた。


「サラとわたしで作ったお菓子にどうしても、この街の名前を使いたかったの。光の聖女が作ったお菓子なら、この街の名前にふさわしいと思って……」

「リーゼロッテや。我々に無断で光の聖女の存在を明かしたのは問題だ。しかし、本質はそこではない」


 喉の調子が良くなった国王は、優しくリーゼロッテに話しかけた。


「光の聖女が現れた。この情報はどこの国も欲しがる。しかし、光の聖女がいつ、どこに現れるかなど誰もわからない。だから、それがオーランド王国に現れ、ベラルギー王国を救うため、自らの意志でここに来たということであれば、誰にも責められない」

「では、何が問題なのですか?」

「光の聖女が王族と結婚するということだ。これは聖女の力をその一国が独占するという意味を持つ。オーランド王国からすれば、オーランドに現れた聖女を、我々が簒奪し、独占しようとしていると捉えられる。国内としては、フィリップが言ったように、次期国王であるフィリップではなく、ローレンスの妻となるというのであれば、国を割る事態に発展する可能性もある」

「そ、そんな……わたし、そんなつもりでは……ただ、サラとお兄様を見ていると、お似合いだと思って……」


 リーゼロッテは今にも泣き崩れそうに顔を両手で覆い隠した。

 その背中にローレルは優しく手を置いた。


「陛下、まず、先に申し上げます。俺はサラと結婚するつもりはありません。そもそも、サラは望まぬ結婚を強いられて、逃げて来たのです。このような形で結婚を強いるなど本末転倒です。昨日の話はまだ、社交界内だけの話であれば、この国として、俺とサラの婚約に関しては誤報だと発表をお願いします」

「……それで良いのか、光の聖女……いや、サラ・ファーメン」


 国王は、ローレルの言葉をサラに確認する。

 それは国王としてではなく、ローレルの父として、二人の本当の気持ちを聞いているようだった。

 本当に二人が恋人同士であるならば、手段を考えると言っている。


「はい、お願いします。そもそも、婚約者というのもリーゼロッテ様は勝手に言っていたことですし、ローレンス様もご迷惑でしょうから」

「いや、オレは迷惑と言うわけではない。こんなオレの婚約者ではサラの方が迷惑だろう」

「ほら! やっぱり、二人ともいい感じじゃないですか! わたしは間違ってなかったですわ」


 先ほどまで泣きそうだったリーゼロッテは胸を張った。


「リーゼロッテ、お前が暴走したから話がややこしくなっているということを理解しなさい」


 国王は優しく愛娘を嗜めた。

 リーゼロッテが大人しくなったのを見て、国王は話を進める。


「わかった。まずは一旦、二人の婚約は間違いだったと発表しよう。良いな、フィリップ」

「御意」

「その上で、光の聖女を国賓と迎える。おそらくオーランドから返還要求があるだろうが、そこは聖女の自由意志と言うことで拒否をする。それで良いか? サラ殿」

「陛下の心遣い恐れ入ります。しかしながら、私は今まで通り、ローレル隊の食事係サラとして扱っていただけると助かります。光の聖女はふらりとどこかに行ったことにしていただけないでしょうか?」


 国王の提案をあっさり断るサラだった。


「……その要求を我々が受ければ、貴女がこの国にいる限り、我々に聖女の力をお借りできるのか?」

「私のできることであれば……」

「分かった。フィリップ、そのように発表をしろ」


 こうしてリーゼロッテの引き起こした騒動は、光の聖女がベラルギー王国に現れたことを世界に発表したことになった。

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