目次
ブックマーク
応援する
11
コメント
シェア
通報

第123話 オーランド使節団の打ち合わせ

 アリスたち使節団は、ベラルギー王宮にある来客用の屋敷、迎賓館へ移動する。

 賓客用の意匠を凝らした調度品が置かれ、行き届いた屋敷は、それ自体で完結しており、長期滞在を可能にしている。

 当然、使節団独自で警備も可能になっている。

 つまり、使節団の護衛任務に就いている騎士たちも、同じ迎賓館に滞在しても問題ない作りになっていた。

 その迎賓館の広間にアリスたちは集まっていた。

 そんな中、騎士のひとりがアリスに話しかけた。


「それで、サラの様子はどうだった? 本物のサラだったのか?」

「ええ、間違いなく、サラだったわ。とりあえず、元気そうだったわよ、エリー」


 アリスの話相手は、護衛騎士として使節団とともにベラルギー王国に潜入したエリオットだった。

 オーランド王国王位継承順位一位であるエーリオ第一王子として、敵国であるベラルギー王国へ使節団としてやって来るのは危険すぎる。光の聖女の返還交渉は自分にまかせろと、ユリアンに説得されたエリオットは、使節団の代表の座をユリアンに譲り渡したのだった。

 その代わり、自分はただの護衛騎士としてついて行くと、強硬に主張したのだった。

 エリオットは言い出したら聞かないということをよく知っているユリアンは、ある約束を飲むことを条件に了承したのだった。

 絶対に第一王子の身分を知られないこと。

 そんなエリオットは、サラの無事を確認してホッとした。


「そうか、元気なのか。それは良かった。しかし、なんであいつはベラルギーに居るんだ?」

「そんなのアリスに分かるわけないじゃない」


 すでにラフな服に着替えたアリスは、エリオットに文句を言う。


「せっかく、姉に会えたというのに、機嫌が悪いな」

「まあね……」


 アリスは思い出したくないと言わんばかりに口を閉じる。

 エリオットは仕方なく、会食の内容を知るユリアンの方を見た。


「まあ、仕方がないですよ。長旅で疲れている上に、アルベルト王子に言い寄られたのですから」


 ユリアンも疲れたと言わんばかりに、迎賓館に置かれていたワインを開けていた。

 それを見たアリスは目を輝かせた。


「アリスにも、もらえます?」

「もちろんです。エーリオも飲むでしょう」

「……ああ、もらう。しかし、お前は白百合の仮面をかぶったら、本当にモテるんだな」

「まあ、社交界嫌いのエーリオ王子が知らないのも無理はないですけれど、これでもアリスは、社交界の白百合ですからね」


 アリスは胸を張ってドヤ顔を見せる。


「それからすると、俺は社交界に出なくてよかったな。こんな毒白百合に騙されなくて……」

「エーリオ、アリス嬢、ケンカはよそでやってください。それよりも、サラ嬢の現状の確認と、これからの対応ですが……」


 赤ワインを飲みながら、ユリアンとアリスは今日の出来事をエリオットに報告する。

 それを聞いたエリオットは頭をひねった。


「話を聞く限りだと、サラは光の聖女として貴賓扱いとして迎え入れられているようだな」

「ええ、サラの”ふかふかパン”が出てきたから、サラもこの国に協力しているようだけど……」


 アリスは歓迎会の食事の端々にサラの姿がチラついた。

 さすがにサラ自身が料理を作ったわけではないだろうが、サラの知恵や指示が加わっている料理があったのだった。

 話を聞いたエリオットは自分の考えを口にする。


「つまり、サラはこの国に協力しているのは間違いないだろう」

「そうですね。それがサラ嬢の意志なのか、強制なのかは不明ですが」

「あのお人よしだから、アリスたちから見たら強制でも、ついつい、やっちゃってるのよ。だから、サラに聞いてもダメよ」


 サラのことを知り尽くしているアリスの意見に、エリオットも納得する。


「そうなると、ベラルギー側にサラを無理やり連れ去ったということを認めさせないといけないんだな」

「……それって、簡単じゃないわよね。サラが一言、『自分の意志で来た』って言っちゃえば、終わりよね」

「無理やりにそんなことを言わせるようなことはさせない。そもそも、サラがベラルギーに来る理由なんかないだろう」


 エリオットは、ベラルギーがサラを強制的に連れ去ったと確信している。

 あの村で過ごした日々、王都を救おうと奮闘した経験でサラとの絆を感じているエリオットには、サラがエリオットから逃げているなど全く考えていなかった。

だから、今回の使節団はサラを救うためのもの。

 オーランドに帰りたくても帰れないサラが、帰らないと言う選択肢など取らないだろうとエリオットは考えていた。

 しかし、フラットな気持ちのユリアンが歓迎会で気が付いたことをエリオットに報告する。


「先ほどの会食で気になったことがあるのだが……」

「なんだ?」

「席順なのだが、最上座に国王、その次に貴賓であるサラ嬢までは分かるのだが、その隣にリーゼロッテ王女が座っていた。普通であればフィリップ第一王子が座るはずなのだが」

「そうだな……しかし、それにどういう意味が?」

「サラ嬢とリーゼロッテ王女の仲をアピールしていたのだろう。二人しておそろいのベラルギー服を着ていたからな。それと男性が隣にいないということで、サラ嬢を脅迫していないと見せつけるため狙いもあるのかもしれない」


 リーゼロッテのわがままをフィリップが了承した理由は、まさにユリアンが考えたようにオーランド側に受け取らせるためだった。

 話を聞いたエリオットは、これからの方針を説明する。


「まず、サラは交渉の場から外してもらおう。どのようにサラをこの国に連れて来たかベラルギー側の言い分を確認する。その時点で強制的に連れて来たと分かれば、サラを連れて帰る。なるべく時間をかけたくない」

「そうね、ハンナちゃんが心配だものね」

「ああ、そうだな。帰ったら、ハンナのご機嫌も取らなきゃいけないんだ。長くなればなるほど、大変だからな」


 そう言って、ひとり王都に置いてきぼりにされて怒り狂っているハンナのことを考えると、エリオットは帰るのが嫌になっていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?