「ねぇワイアット何か、あったの?」
普段とは違う明るさを機敏に感じ取ったエルシーが訊ねた。
熟したリンゴを剥く手を一旦止め、ワイアットは頷く。
「実は……えと、友達と久しぶりに会えて」
友達、と聞いた途端、エルシーは目を伏せた。
再び手を動かしながら、話を続ける。
「銃の腕も、体術も、俺達軍人よりも長けてて、冷たいけど愛情深い……とにかく凄い人」
語る言葉の端々に込められている優しさが、胸苦しさを強めた。
「私も……友達でしょ」
「マッケナ総帥のご親戚に、俺みたいなのが」
「私の友達よ!」
震えながら強く言い切る。
エルシー自身、思っていた以上の声が出てしまい、喉を押さえてせき込んだ。
「おじょぅ……あーと、エルシー大丈夫?」
「へ、平気。やっぱり軍人は、あの人を尊敬するのね」
「分裂してた国を統治した方だ。人食い狼の」
「ヴォルフよ、いとこのメリナに人食いなんて言ったら3時間以上の説教を受けるわよ」
「め、メリナ様って調査隊だったっけ、あれ、コニーが確か」
「メリナは調査隊員の話を毎日聞いて、調査隊に入隊希望してるところ。はぁ、あの人も、メリナも好きなことしてるのに、私は、ずぅーっとベッド暮らし……年の近い友達だっていない……だから、ワイアットだけは友達でいてほしいの」
一口サイズにカットしたリンゴを差し出す。
「俺だって友人は少ないから、エルシーの友達になれるなら嬉しい。でも、護衛の任務が終わればまた都に戻らないといけない」
任務に愕然とし、何も言えず横になる。
「エルシー、離れていても手紙でやり取りできるよ。友達なら、どこにいたって繋がってられる……きっとそうだから、リンゴを食べてゆっくり休んで、また明日」
優しい言葉を残して寝室から出たワイアット。
守衛のように扉の外で立っている屈強な軍人が呼び止めた。
「おぅワイアット、ガールフレンドが来てるんだってな」
「えっ、彼女は、そんなんじゃない、あー友達」
気まずそうに躓かせて返す。
「はは、照れるな照れるな、彼女明日には出てくんだろ。会えるうちに色々話しとけ。お互い、いつどうなるか分からないんだからな」
「あぁ、はは……はぃ」
困った笑い声を絞り出したあと、ワイアットは駆け足で屋敷を飛び出した――。