「後ろにいるのは、もしかしてマッケナ総帥のご親戚ですか?」
ワイアット越しに見えた病弱に痩せた赤毛の少女について訊ねた。
言いかけたところを強制的に止められたワイアットは振り返る。
「え、エルシー! どうやって外に、体は大丈夫?」
慌てて寄っていく。
屋敷から狩人小屋までの数メートルの距離に息を上げ、肩が静かに上下する。
「アナタは、ワイアットの想い人なのね」
思いもよらない言葉に、赤ずきんは一瞬目が点になったが、すぐに優しく微笑んだ。
「彼は命の恩人であり、友人です。私には大切な相棒がいますから」
「うっ」
俯いたワイアットの反応に、エルシーは弱々しい目で睨んだ。
「ワイアットは私の友達よ、悲しませないで」
「あ、あの、エルシー、みんなが心配するから戻ろう」
「黙りなさい!」
ワイアットは反射的に胸を張り、真正面に顔を固定させて、不動の姿勢となる。
「エルシーさん、私はもうすぐ出発しますからあとはご自由に」
「待ちなさい! 私の話を無視する気なの?」
狩人小屋に行こうにも呼び止められてしまう。
肩をすくめ、小さく息をつく。
「きっと家庭環境ゆえの言動なのでしょう、エルシーさん、友達関係を築きたいのなら言葉は気を付けて使った方がいいですよ。彼は軍人ですから」
「言葉に? どういうことよ、ちゃんと説明して」
「お友達に聞いてください。あと、ワイアットさん」
眉がピクリと反応し、瞼を何度か、パチパチと動かした。
「エルシーさんを外に、危ない目に晒すのは軍人失格ですよ。では、さようなら」
別れの言葉に返すことができず、静かに遠くを眺め、張り裂ける感情を胸の奥に落とし込んでいく――。
数週間が経過したあと、ワイアットは私服で屋敷にいた。
「どうして軍をやめるの? 私が、勝手に外に出たから?」
「いや、違うんだ……エルシーと友達になるにしても、やっぱり軍にいると主従が生まれちゃうだろ、どこかで命令だから友達としているって、なるんだ」
「そんな」
エルシーは肩を落とす。
ワンピースの裾をぎゅっと握りしめ、細い手を震わせた。
「ただ、俺も友達が少ない方で、友人と呼べる人なんて片手にいるかどうかも怪しい。だから、ちゃんとした答えが言えなくて歯がゆいけど……俺はエルシーと友達になりたいから、除隊する」
「私は、邪魔したのよ、彼女と話したかったんでしょ、もっと」
軽く咳払いをして、ワイアットは誤魔化し微笑んだ。
「いや、いいんだ。上手くいかないのは分かってたしさ、エルシーを嫌う理由にはならないよ。エルシーも、もう少ししたら都に戻れるんだろ?」
「えぇ、だいぶ落ち着いたから、ワイアットはどうするの」
「都に戻る。何かカフェか雑貨でもしようかなって、店ができたら一番に招待するよ」
「うん、ありがとうワイアット」
力なく微笑んだ。
エルシーは床に足をつけ、ゆっくりと立ち上がる。
「せっかく友達が来てくれたんだから、リンゴかお菓子を持ってくるわ。ワイアットは待ってて」
「え、そんな悪いよ、俺が」
「じゃあ一緒に行く?」
一緒に、と誘う優しい口調。
遅れて立ち上がったワイアットは隣に並んだ。
「うん、その方がいい、行こう」