マルクエン達は先を行くラミッタの後を付いて外まで出た。
街外れまで来ると、ラミッタはくるりと振り返る。
「あなた達、少しは動けるようになったかしら?」
「えっ? えぇ、まぁ、はいッス!」
「私もいけます!」
その言葉を聞いて、ラミッタはふふっと笑う。
「よろしい! それじゃやるわよー」
結局夕暮れまで特訓をし、またも体を酷使する二人。
「それじゃ、今日はここまでね!」
「う、ウス!!」
今にもしゃがみ込みそうになるが、気合で立ち、返事をするケイ。
美しく、優しい夕日に照らされて、ラミッタは唐突に言う。
「それでね、シヘン。ケイ。あなた達二人との旅はここでお終い!」
一瞬、何を言われたのか分からないシヘンとケイだったが、最初に話し始めたのはシヘンだった。
「ど……。どうしてですか!!」
ラミッタは優しげな笑顔でそれに答える。
「シヘン。私達は魔人と、魔王と戦うわ。その戦いの中であなた達を庇うことは出来ないと思う」
「そうっスよね……」
ケイは納得していたみたいだが、シヘンは違う。
「私は……。付いていきます! ラミッタさん言ってましたよね? 命を賭けても良いって思えたら覚悟を決めろって!!」
「今のあなた達の実力じゃ、命を賭けることすらできないわ。ただの犬死によ」
今度は冷たく言い放つラミッタ。マルクエンは「言い過ぎじゃないか」と言いたかったが、黙って見守る。
「っ……」
シヘンは言葉に詰まる。
「あなた達の事、嫌いになったわけじゃないわ。むしろ良い仲間だと思っている。だからこそ、ここでお別れなのよ」
「シヘンさん。ケイさん。私もラミッタと同じ気持ちだ」
そこまで言われ、シヘンの目から涙が伝う。ケイも別れの悲しさと、思われている感動で胸がいっぱいになった。
「今までありがとう」
シヘンをラミッタが優しく抱きしめる。
「っつ、うぁぁぁ……」
シヘンは声を押し殺して泣いていた。
すっかり日が暮れて夜になる。ホテルの大浴場でラミッタ達は湯に浸かっていた。
「あー、
ケイは普段通り明るく振る舞うようにしている。
「えぇ、いいものね」
ラミッタも特段変わりのない感じだった。今日が別れの日とは思えないぐらいだ。
一人、シヘンだけが暗い顔を隠せずにいた。
風呂から上がり、今日も食堂で豪華な料理を食べる。
「あなた達と出会って、結構長かったけど、色んな事があったわよね」
「そうッスよねー。トーラの村では魔物も魔人も蹴散らすし、正直あの時は『この人達に付いていけば美味しい思いできるんじゃないか』って思ってたッス!!」
ケイがそんな事を言うのでみんなで笑った。
「確かに色んな事は知れたよね」
シヘンもようやく笑顔を見せる。
「まぁ、今生の別れってわけじゃないし、またどこかで会えるわよ」
他愛もない会話を楽しみ、食事も終えて皆は床に就く。
すんなりと眠れて、朝を迎える一行。
マスカルとの約束の7時に冒険者ギルド前へと着く。
勇者が居るという事で人だかりが出来ている。
そこへ更に竜殺しのパーティがやって来たので、見物人は何事だとざわめいていた。
「お待ちしていました。皆さん」
「お待たせしました」
マスカルに言われ、マルクエンが返す。
「それでは、行きましょうか」
「わかりました。それでは……」
マルクエンとラミッタは後ろを振り返る。
「シヘン。ケイ。元気でね」
「シヘンさん。ケイさん。またお会いしましょう」
「はい! どうかご武運を!!」
「お達者でーッス!!!」
勇者パーティーは何があったのか察したのだろう。追求はせずに歩き始めていた。
「改めまして、歩きながら自己紹介でもしておきましょうか」
マスカルが話し始め、マルクエンも「えぇ」と頷く。
「私は勇者を務めさせて頂いているマスカル・アンガスです。魔剣士上がりなので、剣と魔法で戦います」
続いて褐色肌の大男が自己紹介を始める。
「私は剣士のゴーダ・ジャジーです」
短めの自己紹介が終わると、最後に胸が大きく、美しい魔道士が話し始める。
「私は魔道士のアレラ・ルスタインと申します。以後お見知り置きを」
勇者パーティの自己紹介が終わると、今度はマルクエン達の番だ。
「私はマルクエン・クライスです。元の世界では騎士を務めさせて頂いておりました」
「ラミッタ・ピラです。魔剣士です」
マルクエンは丁寧に、ラミッタは適当に挨拶をした。
「勇者マスカル殿、試練の塔と言いましたか、そこへ向かうのですよね?」
そうマルクエンに尋ねられると、マスカルは返事をする。
「えぇ、それと勇者も殿もいりませんよ」
「わかりました、えーっと、マスカルさん」
歩き続け、マルクエンはふと疑問に思った事があった。魔物と一切出くわさないのだ。
「だいぶ歩いているのに、魔物に出会いませんね」
それを聞いてアレラが答える。
「私が結界を張っていますので、相当強い魔物以外は逃げていますね」
「そんな事にも気付かなかったのかしら? まだまだね、宿敵」
ラミッタに言われ、少し情けなさを感じるマルクエン。夜になる前には無事に宿場町へと着いた。