食事を摂っていると、マルクエンはハッとしてとある事を思い出す。
「しまった。すっかり忘れていましたが、ジャガの街で竜の素材を使った武器を作って貰っている所でした」
ラミッタもそれを聞いて「そういえば」と思い出した。
「あの二人とのお別れにばっかり頭が行ってて、忘れていたわ」
「今の装備では何か問題でも?」
剣士のゴーダが聞くと、マルクエンは答える。
「私達が元の世界から持ってきた剣は魔人によって破壊されてしまいました。この剣は急遽、買った物なのです」
マスカルが「なるほど」と頷く。
「そうでしたか、後ほどお二人の装備品を拝見してもよろしいでしょうか?」
店を出て、人の迷惑にならない場所で剣を抜いて見せた。
「そうですね……。一般の冒険者でしたら十分に立派な剣ですが、試練の塔へ挑むには
「ジャガの街へ戻り、剣を貰ってきますか?」
マルクエンが言うと、マスカルは首を横に振る。
「残念ですが、剣が出来るまで時間もかかるでしょう。今は一刻を争う事態なのです」
「そんなに猶予が無いのですか?」
ラミッタが疑うように見た。
「魔人もこちらの動向を探っているでしょう。お二人には早く力を手に入れて頂かなくてはなりません。そして、勇者となり、各地に散らばる箱を破壊して頂きます」
「箱を壊すだけであれば、試練の塔へ挑まなくても良いのでは?」
ラミッタの言葉に、マスカルは説明を始める。
「試練の塔へ挑まなくてはいけない理由は二つあります。まず、第一に神から授けられる能力を手に入れること」
「世界の危機だと言うのに、塔を登らせるなんてケチくさい神様ですね」
「次に、試練の塔を突破した勇者として人々に希望を与えるためです」
「なるほど……」
肩書きが大事なことは、騎士であるマルクエンは重々に分かっていた。
「試練の塔は選ばれしものしか門を開くことが出来ませんが、きっとお二人であれば」
「わかりました」
「武器は手配させましょう。何だったら私達の剣をお貸ししても良い」
「ありがとうございます」
武器の心配は無くなり、
翌日、またも街道を行く。しばらくすると、遠くに長細い建造物が見えてきた。
「あそこに見えるのが試練の塔です」
「あれが……」
マルクエンは目を凝らし、ラミッタは千里眼を使い、試練の塔を見る。
「もう一息です。向かいましょう」
マスカルはそう言って歩き出す。一歩一歩と塔が近付いてきた。
やがて、塔を見上げる様になるほど近づく一行。昼を過ぎた頃だ。
「そろそろ武器が届くはずです。そうしたら」
そこまで言って一斉に武器を抜くマスカル達。マルクエンとラミッタもそれに続く。
「あらら、気付かれちゃった?」
現れたのは奇術師の魔人『ミネス』と、ルカラカの街を襲った魔人『クラム』だった。
「ねー、いい加減さー、魔王軍の仲間になってよー」
「断る!!!」
「ならばこの場で死ね」
クラムが槍を構えて急降下して来た。マスカルが前に出てそれを弾く。
「お二人は試練の塔へ!!!」
「ですがっ!!」
「この場は大丈夫です!! 急いで!!!」
マスカル達が足止めをしている間に塔へ走るマルクエンとラミッタ。
「させないよー? マーダージャグリング!!」
ミネスは火の壁を作ってマルクエン達の行く先を阻む。
「こんなチンケな炎で止められるとでも?」
ラミッタは走りながら水魔法で炎を消し、突破したが、それは罠だった。
炎の先には地中に箱が設置されており、魔物の大群が現れる。
「くそっ!!」
マルクエンは手当たり次第に魔物を斬り捨て前へ進む。ラミッタも魔法と剣を駆使して進んだ。
「それじゃ、僕が本気で相手してあげようかな?」
地上に降り立ったミネス。マルクエンとラミッタは、そのまま走り。
斬りかかると見せかけてミネスの横を全力で走り抜けた。
「なっ……」
呆然とした後、顔を赤くさせてプルプルと震えるミネス。
「僕を無視するなー!!!」
走って走って、やっと固く閉ざされた扉の前へ立つ二人。
「これは、どうやって開ければ良いんだ?」
「知らないわよ。押してみたら?」
マルクエンが重厚なその扉に触れた瞬間だ。
塔の上から大きな鐘の音が鳴り響いた。その音が届くと同時に、魔物たちは苦しみだし、絶命していく。
「っつ、あっ、やばっ。ぼ、僕ちょっとこの音、聞いていられない!!」
ミネスは頭が割れそうな痛みに悶え、空へ飛び去ってしまう。クラムも同じで、一瞬の隙ができ、勇者からの剣を一撃浴びてしまう。
「くそっ!!」
ミネスの後を追うように飛び去るクラム。マスカルたちは塔の方を見た。
「どうか、ご武運を……」
塔の内部へと入ることが出来たマルクエンとラミッタは、その内部を観察した。
「なんというか、城のような場所だな」
まるで城のエントランスのような豪華な場は、光の魔法で照らされ、窓が無いというのに明るい。
「この階段を登って上へ行けって事かしらね?」
中央には立派な階段があった。二人はそれを登り始める。