目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第10話『秋の海水浴!? 中編』


「お兄様たちが相手でも、アレッタは容赦しません! いきますよ!」


 やがて試合が始まり、ロイたちの陣地にボールが投げ入れられる。


「ロイ様、ボールを高く上げてください!」


「え? こう?」


 アレッタに言われるがまま、ロイは目の前に飛んできたボールを頭上高くに打ち上げる。


 すると、アレッタはそのボールめがけて大ジャンプした。え、アレッタって、実は運動得意だったの!?


 そう驚嘆するも、次の瞬間にはボールはネットを超え、ボクたちの陣地へ飛んでくる。


 アレッタのジャンプ力には驚いたけど、ボール自体に力はない。落下地点も容易に想像できた。


「……よし、こっちだね!」


「わぎゃ!?」


 その時、同じくボールを追いかけてきたルィンヴェルと正面からぶつかってしまう。


「わ、ナギサ、ごめん」


「う、ううん。ボクこそごめん!」


 ボールしか見ていなかったこともあって、その立派な胸板に抱きつく形になった。


 うわぁ、恥ずかしい……!


 悶えているうちにボールは地面に落ち、アレッタたちの得点になる。


「むー、得点したのはアレッタたちなのに、お二人のほうが嬉しそうな顔をされていませんか?」


「そ、そんなわけないよ!」


 直後にそんな声が飛んできて、ボクは全力で否定する。


「それよりアレッタ! 今、海魔法使ったね!」


「さぁ、何のことでしょう?」


 続いて若干顔を赤くしたルィンヴェルが問いかけるも、アレッタは体を左右に振って白々しい態度を見せる。


 よく見れば、ボクたちの足元には時折波が打ち寄せてきている。アレッタはこの海水を使って、海魔法を発動させたわけだね。


「よーし、ルィンヴェル、ボクたちも海魔法を使おう」


「え、いいのかい?」


「先に使ってきたのはアレッタなんだし、ボクたちが使っても問題ないよ。ボール、思いっきり高く上げて!」


「わ、わかった」


 再びボールが投げ入れられると、ルィンヴェルはそれをうまく打ち上げてくれた。


 その様子を見ながら、ボクは足元の海水に魔力を……。


 ……その時、波が引いた。


「……ふんぎゃ!?」


 海水がなくなったことで足元の魔力は行き場をなくし……ボクは中途半端なジャンプのあと、砂の上に顔から落下した。


「ナ、ナギサ、大丈夫かい?」


「うぅっ……砂が口に入っちゃったよ……ぺっぺっ」


 ボクは砂の上に座り込み、口元に手を当てて砂を吐き出す。


「……これは、波がやってくるタイミングを読んで動かないとダメだね。こんな感じかな!」


 その直後、アレッタの攻撃がネットを超えてきたけど、ルィンヴェルは海魔法で発生させた波に乗って高くジャンプ。ボールを素早く打ち返した。


「おお、ルィンヴェルすごい」


 その一連の動きに、ボクは見惚れてしまう。


「よーし、ボクも負けてられないね。ルィンヴェル、またボールを高く上げて! 今度は成功させてみせるから!」


「わかった。いくよ!」


 先程のルィンヴェルの動きをお手本に、ボクも海魔法を発動。足元の海水で水柱を生み出して、ネットの遥か上空に跳び上がる。


「ちょっとナギサ! それはないんじゃ……ぶっ!?」


 そのままボールを打ち放つと、真下で猛抗議していたロイの顔面を直撃してしまった。


「ご、ごめん! わざとじゃないから!」


 波打ち際に着地しながら謝るも、ロイは地面にひっくり返る。


「あわわ……ロイ様になんてことを。ナギサお姉さま、ひどいです!」


「だから、わざとじゃないんだってば!」


 その様子を見ていたアレッタは憤慨するも、その後の試合は一方的だった。


 ロイは元々運動が苦手な上、波の影響を受けて動きが悪くなる。


 それに対して、ボクやルィンヴェルは波があると逆に動きが良くなるわけだし。


『ナギサお姉さま! 二人同時に海魔法を使うなんてずるいですーー!』


 念話で頭の中に直接話しかけてこないで! 集中できないから!


 ……時々そんな妨害をされたものの、こっちは海魔法使いが二人だ。負けるはずがなかった。


「10対3で、ナギサ様たちの勝利でございます」


「やったー! 勝ったー!」


 マリアーナさんの宣言を受け、ボクとルィンヴェルはハイタッチを交わす。


「うぅ……負けてしまいました。お二人の愛の力に完敗です」


「違うから! 変なこと言わないで!」


 負け惜しみなのか、アレッタはそんなことを口にしていた。


 そりゃあ、試合が進むごとに息が合ってきたのはボクも感じていたけど。愛とか関係ないから!


 ◇


 それから休憩を兼ねて昼食をとり、シンシアたちのチームと優勝決定戦を行うことになった。


「そういえば、優勝したら賞品とかもらえるの?」


「……特に決めていませんでしたわね」


 なんとなく尋ねてみると、シンシアは口元に手を当てて固まった。


 それからしばし眉を寄せて、彼女は口を開く。


「そうですわ。勝ったほうは今日一日、ルィンヴェル様とデートできるというのはどうでしょう」


「ええっ!?」


 ボクとルィンヴェルの声が重なった。


「ちょっと待ってよ!? それって、本人の気持ちは!?」


 シンシアとルィンヴェルの顔を交互に見ながら叫ぶ。少しの間があって、彼は静かに頷いた。


「まぁ……それくらいなら」


「ありがとうございます! マリアーナ、この勝負、何が何でも勝ちますわよ!」


「承知しました。全身全霊を賭して、シンシアお嬢様を勝利に導かせていただきます」


 ルィンヴェルの返事を聞いて、シンシアは笑顔の花を咲かせる。


 純粋な笑顔に見えるけど、最初からルィンヴェルとのデートが目的だったのかもしれない。


「……ルィンヴェル、ボクたちも頑張ろう!」


「う、うん……そうだね」


 ボクは胸の前で握りこぶしを作って気合を入れる。目の前のルィンヴェルは少し引いている気もした。


 正直、ルィンヴェルとデートするのも恥ずかしいけど、勝負に負けてルィンヴェルとシンシアがデートするのを見るのはもっと嫌だし!


 海魔法を駆使してでも、絶対に勝たないと!



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?