「お兄様たちが相手でも、アレッタは容赦しません! いきますよ!」
やがて試合が始まり、ロイたちの陣地にボールが投げ入れられる。
「ロイ様、ボールを高く上げてください!」
「え? こう?」
アレッタに言われるがまま、ロイは目の前に飛んできたボールを頭上高くに打ち上げる。
すると、アレッタはそのボールめがけて大ジャンプした。え、アレッタって、実は運動得意だったの!?
そう驚嘆するも、次の瞬間にはボールはネットを超え、ボクたちの陣地へ飛んでくる。
アレッタのジャンプ力には驚いたけど、ボール自体に力はない。落下地点も容易に想像できた。
「……よし、こっちだね!」
「わぎゃ!?」
その時、同じくボールを追いかけてきたルィンヴェルと正面からぶつかってしまう。
「わ、ナギサ、ごめん」
「う、ううん。ボクこそごめん!」
ボールしか見ていなかったこともあって、その立派な胸板に抱きつく形になった。
うわぁ、恥ずかしい……!
悶えているうちにボールは地面に落ち、アレッタたちの得点になる。
「むー、得点したのはアレッタたちなのに、お二人のほうが嬉しそうな顔をされていませんか?」
「そ、そんなわけないよ!」
直後にそんな声が飛んできて、ボクは全力で否定する。
「それよりアレッタ! 今、海魔法使ったね!」
「さぁ、何のことでしょう?」
続いて若干顔を赤くしたルィンヴェルが問いかけるも、アレッタは体を左右に振って白々しい態度を見せる。
よく見れば、ボクたちの足元には時折波が打ち寄せてきている。アレッタはこの海水を使って、海魔法を発動させたわけだね。
「よーし、ルィンヴェル、ボクたちも海魔法を使おう」
「え、いいのかい?」
「先に使ってきたのはアレッタなんだし、ボクたちが使っても問題ないよ。ボール、思いっきり高く上げて!」
「わ、わかった」
再びボールが投げ入れられると、ルィンヴェルはそれをうまく打ち上げてくれた。
その様子を見ながら、ボクは足元の海水に魔力を……。
……その時、波が引いた。
「……ふんぎゃ!?」
海水がなくなったことで足元の魔力は行き場をなくし……ボクは中途半端なジャンプのあと、砂の上に顔から落下した。
「ナ、ナギサ、大丈夫かい?」
「うぅっ……砂が口に入っちゃったよ……ぺっぺっ」
ボクは砂の上に座り込み、口元に手を当てて砂を吐き出す。
「……これは、波がやってくるタイミングを読んで動かないとダメだね。こんな感じかな!」
その直後、アレッタの攻撃がネットを超えてきたけど、ルィンヴェルは海魔法で発生させた波に乗って高くジャンプ。ボールを素早く打ち返した。
「おお、ルィンヴェルすごい」
その一連の動きに、ボクは見惚れてしまう。
「よーし、ボクも負けてられないね。ルィンヴェル、またボールを高く上げて! 今度は成功させてみせるから!」
「わかった。いくよ!」
先程のルィンヴェルの動きをお手本に、ボクも海魔法を発動。足元の海水で水柱を生み出して、ネットの遥か上空に跳び上がる。
「ちょっとナギサ! それはないんじゃ……ぶっ!?」
そのままボールを打ち放つと、真下で猛抗議していたロイの顔面を直撃してしまった。
「ご、ごめん! わざとじゃないから!」
波打ち際に着地しながら謝るも、ロイは地面にひっくり返る。
「あわわ……ロイ様になんてことを。ナギサお姉さま、ひどいです!」
「だから、わざとじゃないんだってば!」
その様子を見ていたアレッタは憤慨するも、その後の試合は一方的だった。
ロイは元々運動が苦手な上、波の影響を受けて動きが悪くなる。
それに対して、ボクやルィンヴェルは波があると逆に動きが良くなるわけだし。
『ナギサお姉さま! 二人同時に海魔法を使うなんてずるいですーー!』
念話で頭の中に直接話しかけてこないで! 集中できないから!
……時々そんな妨害をされたものの、こっちは海魔法使いが二人だ。負けるはずがなかった。
「10対3で、ナギサ様たちの勝利でございます」
「やったー! 勝ったー!」
マリアーナさんの宣言を受け、ボクとルィンヴェルはハイタッチを交わす。
「うぅ……負けてしまいました。お二人の愛の力に完敗です」
「違うから! 変なこと言わないで!」
負け惜しみなのか、アレッタはそんなことを口にしていた。
そりゃあ、試合が進むごとに息が合ってきたのはボクも感じていたけど。愛とか関係ないから!
◇
それから休憩を兼ねて昼食をとり、シンシアたちのチームと優勝決定戦を行うことになった。
「そういえば、優勝したら賞品とかもらえるの?」
「……特に決めていませんでしたわね」
なんとなく尋ねてみると、シンシアは口元に手を当てて固まった。
それからしばし眉を寄せて、彼女は口を開く。
「そうですわ。勝ったほうは今日一日、ルィンヴェル様とデートできるというのはどうでしょう」
「ええっ!?」
ボクとルィンヴェルの声が重なった。
「ちょっと待ってよ!? それって、本人の気持ちは!?」
シンシアとルィンヴェルの顔を交互に見ながら叫ぶ。少しの間があって、彼は静かに頷いた。
「まぁ……それくらいなら」
「ありがとうございます! マリアーナ、この勝負、何が何でも勝ちますわよ!」
「承知しました。全身全霊を賭して、シンシアお嬢様を勝利に導かせていただきます」
ルィンヴェルの返事を聞いて、シンシアは笑顔の花を咲かせる。
純粋な笑顔に見えるけど、最初からルィンヴェルとのデートが目的だったのかもしれない。
「……ルィンヴェル、ボクたちも頑張ろう!」
「う、うん……そうだね」
ボクは胸の前で握りこぶしを作って気合を入れる。目の前のルィンヴェルは少し引いている気もした。
正直、ルィンヴェルとデートするのも恥ずかしいけど、勝負に負けてルィンヴェルとシンシアがデートするのを見るのはもっと嫌だし!
海魔法を駆使してでも、絶対に勝たないと!