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第11話『秋の海水浴!? 後編』


 どちらも気合十分で始まった決勝戦は、熾烈を極めた。


 海魔法をフル活用するボクとルィンヴェルに、マリアーナさんは意味不明なほど高い身体能力で応戦。得点係のロイを含め、観客の皆は固唾をのんで試合を見守っていた。


「……試合終了! 10対9で、ナギサたちの勝ち!」


「やったー! 勝てたー!」


 やがて激戦に決着がつき、ボクは思わずルィンヴェルに抱きついて喜びを爆発させる。


「ま、負けましたわ……」


「シンシアお嬢様、お役に立てず、申し訳ありません……」


 対戦相手の二人も精根尽き果て、砂の上に座り込んでいた。


 マリアーナさんの身体能力が際立ったものの、シンシアも接地直前のボールをすくい上げるなど頑張っていた。本当にいい勝負だったと思う。


「その喜びよう……ナギサさん、そこまでルィンヴェル様とデートがしたかったのですね。それならそうと、早く言ってくださればよかったのに」


「……へっ?」


 シンシアの言葉に、ふと我に返る。


 ボクは相変わらずルィンヴェルに抱きついていて、抱きつかれた本人は顔を赤くして目を逸らしている。


 それに加えて、なんだか皆からの視線が痛い。


 いや、その誰もが笑顔なんだけど、微笑ましいものを見るような目をしている。


 ……もしかしてボク、すごく積極的な子に見えているのでは。


「い、いやその、勝負に勝てたのは嬉しいんだけど、他意はないと言うか……!」


 弾かれるようにルィンヴェルから離れ、そう弁解するも……皆の表情は変わらない。


「プライベートビーチですし、気兼ねなく楽しまれてください」


「向こうの岩陰がいい感じだぜ」


「それじゃ、私たちは向こうにいるから。二人は楽しんでね。アレッタちゃん、行きましょ」


 口々にそう言って、仲間たちはボクらから離れていく。


 取り残されたボクとルィンヴェルは、お互いに顔を見合わせるしかなかった。


 ◇


 皆が去ったあと、ボクとルィンヴェルは何をするでもなく、浜辺に並んで座っていた。


 うぅ……改めてこういう場を用意されると、何を話せばいいのかわからない……!


 というか、デートって何をすればいいんだろう。今から街に出かけるわけにもいかないしさ。


 頭の中で色々と考えるも、それ以上のことはできず。意味もなく砂の上に指を這わせていた。


「こうやって二人っきりになるの、一緒に海魔法の練習をした時以来かな」


「そ、そうだね。あの時はお世話になりました……」


 思わずそんな言葉を返す。最近はアレッタと一緒に暮らしているのもあって、ルィンヴェルと二人っきりになる機会なんてなかった。


「アレッタは迷惑をかけてない?」


「ううん、賑やかで毎日楽しい」


「そういってもらえると嬉しいよ。お世話になってるし、何かお礼をしたいんだけどね」


「気にしないで。ボクとルィンヴェルの仲じゃない」


「それだと、僕の気が収まらないんだよ。そうだ。またマッサージでもしようか?」


「え? いや、あれはあれで気持ちいいんだけど……足の裏だけはやめてほしいというか」


「そう……じゃあ、最近肩に力が入ってるみたいだし、肩と腕のマッサージでも」


「うひゃ!?」


 そう言った直後、ルィンヴェルはおもむろにボクの肩を掴む。


 ボクは水着姿なので露出も多く、彼の大きな手が素肌に直接触れる。なんとも心地よく、変な声が出た。


 それから彼は優しくゆっくりと肩を揉んでくれる。


「あーうー、ルィンヴェル、やっぱりマッサージ上手いよね」


「そうかい? 立場上、誰かにしてあげることもなかったから」


 肩のマッサージは足の時と違って距離が近い。すぐ耳元でルィンヴェルの声がして、なんともくすぐったい気持ちになる。


 今が夕方でよかった。夕日に照らされていなかったら、顔が赤いのがバレてしまっていただろうから。


 ……そんなことを考えていた矢先、突然ルィンヴェルがボクを背後から抱きしめてきた。


「……!? ルィンヴェル、どうしたの!?」


「……ナギサ、静かに」


 つい動揺するも、ルィンヴェルはボクの肩越しに、真剣な表情で海に視線を送っていた。


「海の中に誰かいるね」


「だ、誰かって? ここ、プライベートビーチだから、ボクたち以外の人はいないはずだよ?」


「わからないけど、鋭い視線を感じるよ。少なくとも、友好的な関係じゃなさそうだ」


 ボクを抱き寄せながら、ルィンヴェルは言い、直後にマールさんを呼び出した。


「殿下、お呼びでしょうか」


「海の中に妙な気配を感じる。少し、海中を探ってくれるかい」


「かしこまりました。警護を務めるワタクシの目をあざむき、殿下にここまで近づくとは、どんな輩でございましょうか」


 言うが早いか、マールさんは海の中へと姿を消していった。


「……もしかすると、隣国の連中かな」


 その背を見送ったあと、ルィンヴェルは本当に小さな声で呟いた。


 なんにしても、それまでの穏やかな雰囲気は消し飛んでしまったし、とてもデートを続ける空気じゃない。


 これ以上海に入るのも危険ということで、ボクたちは皆に声をかけ、撤収することにした。


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