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第60話 ころちゃん視点 宰相の屋敷にアレイダの侍女になついて入れてもらいました

俺様はそれから必死に宰相の邸宅の前まで歩いた。

前回は探しながら12時間くらいかけて歩いたのだが、今回は4時間くらいで歩けた。

子犬の足で4時間は結構きつかった。

まあ、一度歩いた道はよく覚えていた。


しかし、宰相の屋敷は、前に来た時と違って結構警戒してるみたいだった。

前は門の外には門番が立っていなかったのが、今回は兵士が二人も立っていたのだ。

表側も見たが、こちらは6人も立っていた。

完全な厳戒態勢だった。

高い塀に囲まれて中は見えなかったが、既に多くの兵士達が入り込んでいるのかもしれない、俺はとても不安になった。


これでは中には簡単には忍び込めない。

俺は仕方なしに、外の草陰に潜んで様子を見た。出入りする人を眺めていたが、結構人の出入りがあるのだ。前はそこまでの出入りはなかったように思えた。


出入りする者の言葉に時々ノース語が聞こえた。

ノース帝国の言葉はこの国の大陸公用語と良く似ているノース語だ。

サウス帝国のサウス語も似たような言語だった。厳密に言うと違うのだが、とても似ていて、言葉には余り不自由はしない。ただ北の方言、南の方言という感じなのだ。

俺達の獣人語はまた全然系統が違ったが。俺は王子だからこの大陸公用語も話せたし、当然獣人語も話せた。その俺がノース語だと思えたと言うことはノース帝国からもある程度の人員がこの屋敷に来ていると言うことだ。


サウス語は聞こえなかったので、北からの者が多いのではないかと予測できた。

フェルディナントの国はまだ態度を明らかにはしていないみたいだ。



それで、どうやって中に忍び込むかだ?

俺は悩んだ。

前回はコリーにつれて中に入れてもらったから簡単だったが、今回はどうしよう?

警戒は結構厳しそうで、この警戒の中を忍び込むのは難しそうだ。

仲良くなった破落戸どもがいれば良かったのだが、今は全員がまだ牢の中だ。


それと、前回の捕縛の時の事がどれだけ知られているかも気になっていた。俺がカーラの犬だと皆に知られていたらまずい。まあ、それを知っていそうな破落戸どもは全員牢の中だし、アレイダの侍女のコリーが知っているかもしれないという程度だ。

知られていたら中には絶対に入れてくれないだろう。


まあ知られていなくても宰相の妻が犬嫌いなので、侍女や騎士達も余程のことが無いと俺を中に入れてはくれないはずだ。



その点、前回はコリーが簡単に中に入れてくれたし、本当に幸運だったのがよく判った。コリーのところを逃げ出した後も、ベイルが俺を気に入ってくれて、かくまってくれないと見つけ次第殺されたか外に放り出されたはずだ。その点はとてもラッキーだった。

重ね重ねベイル達が牢にいるのが残念だった。


宰相の屋敷は中に入ろうにも石の壁は高く、近くに登れそうな木も無かった。

俺がどうしようか悩んでいる時だ。


俺はコリーが屋敷から出て行くのを見つけた。

買い物にでも行くみたいだ。


俺は帰って来るのを待つことにした。一か八かコリーに当たってみよう。


2時間くらいでまた、コリーが戻ってきた。


「わんわん」

俺は入り口から離れたところでコリーに駆け寄ってみた。


「シロちゃん?」

コリーは俺を見て声をかけてくれた。


「どこに行っていたの? 本当に心配したんだから」

コリーは俺ところちゃんが一緒だとは全く気付いていないみたいだった。

まあ俺はどこにでもいる白い子犬だし、コリーには区別がつかないみたいだ。


「どうしよう? でも、最近お屋敷の中は警戒が厳しくなったのよね。あなたを飼うのは難しいわ」

しかし、あっさりコリーが突き放してくれた。


「クーーーー」

俺は残念そうに尻尾を垂らして、涙目でコリーを見上げた。


「えっ」

コリーは固まってしまった。

俺の必殺女殺しのひと睨みだ。


「ちょっと、そんな目で見ないでよ。シロちゃん」

コリーはとても困った顔をした。

もう一息だ。


「クウーーーン」

俺は鼻をコリーの手に擦り付けてみたのだ。


「えっ、シロちゃん」

俺は俺を抱きしめたコリーの顔を舐めたのだ。

もうこうなったらなりふり構っていられなかった。


「ちょっと、しろちゃん。そんなに舐めたら駄目だって!」

コリーは嬉しそうに俺に舐められていた。

そして、俺は恨めしそうな目をコリーに向けたのだ。


「ああん、もうそんな目で見ないでよ」

半分涙目にコリーはなっていた。


「でも、シロちゃん。今度は逃げたりしない?」

コリーが俺の目を見て聞いてきた。

「わん!」

俺は思いっきり頷いたのだ。


「もう仕方が無いわね。絶対に静かにしているのよ」

「わん!」

俺はそう吠えるとコリーの顔を大サービスで舐めまくったのだ。

「本当に絶対に静かにしているのよ」

そう言うとコリーはなんと俺を服の胸の中に入れてくれたのだ。


ええええ!

これでまた3日間は人間にもどれない!

俺は唖然としたが、中に忍び込むには仕方が無かった。

俺は悟りの 境地で、コリーの胸の中で静かにすることにしたのだ。


途中で門番の前を通る時に、前は鞄のチェックなど無かったはずなのに、今回は門番が中をチェックしているみたいだった。

良かった。

コリーが俺を胸に隠してくれないと見つかるところだった。

でも、門番がたばこを吸うみたいで、においがして俺は鼻がむずむずした。


クシュン!

俺は思わずくしゃみをしてしまったのだ。

俺はぎくりとした。


「な、なんだ?」

門番が不審に思って聞いてきた。俺は完全に固まってしまった。

まさか、女に服を脱げとは言わないだろう?


「ごめんなさい。ちょっとさっきからしゃっくりが止まらないみたいで」

カーラが笑って誤魔化してくれた。

「そうか、なら通って良いぞ」

門番の声を聞いて俺はほっとしたのだった。


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