私は夢を見ていた。
そこには白い騎士様がいた。
「白い騎士様!」
私は白い騎士様の胸の中に飛び込んだのだった。
白い騎士様は私を抱きしめてくれた。
私はとても幸せだった。
でもその幸せも長くは続かなかった。
白い騎士様は私を引き離すと悲しそうな顔をしてくれた。
「何故、そんなに悲しそうな顔をするのです?」
私が必死に尋ねたが、白い騎士様首を振るだけだった。
そして、手を振ってくれたのだ。
「えっ、白い騎士様!」
私の目の前で白い騎士様はドンドン遠ざかって行くのだ。
「待って! 白い騎士様」
私が白い騎士様に向かって頼んだのに、白い騎士様はあっという間にいなくなってしまったのだ。
「待って!」
私は自分の声に驚いて飛び起きた。
「いかがなさいました?」
サーヤが私の声に驚いて飛び込んで来た。
「何でもないわ。悲しい夢を見ただけよ」
私が説明すると
「さようでございましたか?」
サーヤはほっとしたみたいだった。
外は既に白み始めていた。
そこで私はいつも胸に抱いているころちゃんがいないのに気付いたのだ。
「ころちゃん?」
私は周りを見渡した。
「ころちゃんですか? ベッドの下にでも潜り込んでいるのですかね?」
サーヤも一緒に探し出した。
でも、どこにもいなかった。
そんな時だ。私は机の上に紙がおいてあるのに気付いたのだ。
何か書いてある。私はその紙に近付いた。
『宰相反乱時、南の皇子頼れ。あなたの白い騎士より』
それは汚い字でそう書かれていた。子供が書いたような字体だった。
「サーヤ!」
私はサーヤを呼んだ。
「いかがなさいました、姫様」
ベッドの下を探していたサーヤが慌てて私の所に来た。
「このような手紙があるんだけど」
「手紙でございますか?」
そう言ってサーヤがその汚い伝言のような置き手紙を読んでくれた。
「姫様、これはどういう事でしょう?」
「判らないわ。どういう事でしょう? 取りあえず、手紙のことは内密にして騎士達に誰かこの部屋に入った者がいるかどうか確認してきてくれる?」
「判りました」
サーヤはそう言うと部屋の外で警備している騎士に確認しに行った。
『宰相反乱時、南の皇子頼れ。あなたの白い騎士より』
これはどういう意味があるんだろう?
宰相が反乱を起こすということ? でも、今でも大半の事は宰相の許可がないと認可されないから、わざわざ反乱を起こす必要はないと思うけれど、宰相は血迷ったのだろうか?
ノース帝国の皇帝に示唆されたのかもしれない。
ノース帝国は自国の勢力圏を大きくする為には卑怯なことも平気でやる国だった。宰相の傀儡国のこのモルガン王国だが、自らの王女の息子にこの国を継がせようとすれば、反乱を起こすのが確実だ。
もし宰相が反乱を起こしたらその時にはサウス帝国の皇子のフェルディナントに頼れということだろうか?
でも、フェルディナントは宰相の娘のアレイダと婚約の話があるはずだった。私がフェルディナントを頼って問題ないんだろうか?
でも、以前助けてくれた私の白い騎士様がわざわざ危険を冒して忍び込んで伝えてくれたのだ。それは信じるに足る情報だろう。
しかし、白い騎士様はこの部屋に忍び込んで来たんだろうか? そしてね私の寝顔を見て帰って行ったということ?
それを思うと私は顔が赤くほてってきた。
でも、今は騎士達が三人交替でこの部屋を守っているのに、中々この部屋に忍び込むのは難しいと思うんだけど、どうやって忍び込んだんだろう?
私には判らないことだらけだった。
それにころちゃんがいなくなったのも気になった。
普通不審な者が忍び込んできたらころちゃんが真っ先に気付いて吠えてくれるはずだ。
まさか、ころちゃんが気付いて吠えようとしたところを白い騎士様に斬られたとか?
いや、それはないはずだ。
お優しい白い騎士様がそんなことをする訳はない。
でも、そうしたらころちゃんはどこに行ったのだろう?
ひょっとしてころちゃんは忍び込んだ白い騎士様の後をつけてくれたとか?
でも、それはあまりにも自分に都合の良い思い込みだと思う。
あの可愛いころちゃんが忍者のように忍び込んで来た白い騎士様をつけられるかというと絶対にそんな才覚はないと思う。一瞬で見つかって終わりだろう。
じゃあ、ころちゃんはどこに行ったんだろう?
私にはますます判らなくなった。
「姫様。外の騎士に確認してきましたが、間違いなく、誰も出入りした者はおりません。」
サーヤが私に結果を教えてくれた。
「取りあえず、私一人では判断できないわ。すぐにお父様に連絡して極秘に会って相談した方が良いと思うのだけれど」
「さようでございますね。ただ、まだ、夜が明けたところです。朝食を陛下と一緒に取られるというのはどうでしょうか?」
「そうね。その方向でお父様とすりあわせてくれる」
「かしこまりました。あと少しお時間がございますから、姫様ももう少しお休みください」
サーヤはそう言うや、部屋を出て行った。
お父様の侍女達とすりあわせをするのだろう。
でも、もう少し寝ろと言われてもこんな置き手紙があったのだ。私はそう簡単にはねれなかった。
それに白い騎士様に寝顔を見られたらと思うととても恥ずかしかったのだ。私はベッドの中でああでもないこうでもないと考えては赤面して全然寝れなかった。