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第87話 フェルディナントは鬼で大量の書類と宰相の息子を残して行きました

私の生活に平穏が戻ってきた。


いつ反逆するか判らない宰相からの恐怖の圧力が消えたのだ。


そもそもその前から宰相やその妻、娘のアレイダから私は酷い目に合わされていたから、宰相達がいなくなって私はほっとした。

最後は宰相に殺されそうになって本当に最悪だった。

白い騎士様が助けてくれなかったら、私も今頃死んでいただろう。


私はその時の事を思うところちゃんをぎゅっと抱きしめた。

何故かころちゃんを抱きしめると安心感が沸いて来るんだけど。

「ころちゃん。白い騎士様はどこに行ったのかな」

私が問うと

「クウーーーン」

ころちゃんは私を見て鳴いてくれた。



ノース帝国の軍は宰相が反逆罪で処断されたと知って引き返していった。

宰相の娘のアレイダとその母の元皇女がどうなったかは私は知らなかった。


ノース帝国からは返還を依頼されたみたいだが、その行方は知れないかった。

どうやら、お父様達もその行方は掴んでいないみたい。

私はその事がこの後大きく影響するなんて思ってもいなかった。アレイダが、復讐するために色々してくるなんて想像だにしなかったのよ。



宰相が反逆罪で処断されたと知って、宰相派の貴族達は恐慌に陥ったらしいわ。

お父様の国王からの叱責の使者に、慌ててなりふり構わず恭順を誓う者、当主が引退して次代に領主を交替する家もあれば、何食わぬ顔で中立派を装う者までいたと言うから笑えなかった。


貴族の半数以上が宰相派だった。これからこの国の運営は大変だろう。


そんな中、お父様はサウス帝国の皇子のフェルディナントを宰相代理に据えて、その補佐を宰相の息子のベンヤミンにさせた。反逆者の息子を生き残らせて要職に就けるのはどうかという話も当然出たけれど、ベンヤミンは私に宰相の反逆を知らせてくれた本人だ。

まあ、使い魔のガマガエルを寄越したのが私には許せなかったけれど……サーヤはそれを見て気絶してしまったし、私は未だにベンヤミンには近付きたくない。

昔見せてくれたガマガエルも結局はベンヤミンの使い魔だったようだ。

私は忘れてしまったけれど……


ノース帝国としては皇帝の孫がこの国の宰相補佐という要職に就いているので、あまりきついことも言えなかったと思うの。

サウス帝国の皇子が実質宰相でその補佐がノース帝国の皇帝の孫ということで、一応バランスは取れていると思う。


私はそんな中、ころちゃんと庭でゆっくりと遊んだりしていた。

だが、私はこの国の次期国王なのよ。いつまでも遊んでいる訳にはいかないわ。


ということで、宰相代理と宰相補佐から直々に国王教育を受けることになったのよ。


「じゃあ、カーラ様。これが来年の国家予算の概要です」

フェルディナントは大量の書類の束を持って来てくれた。

私は目が点になった。


「こんなにあるんですか?」

私が遠い目をしていると

「何をおっしゃっているのですか? これは概要に過ぎません。このモルガン王国の予算の書類は倉庫1つでは足りませんよ」

ますます私は気が遠くなった。


フェルディナントは容赦がなかった。

「この書類を明日までに目を通してくださいね。判らなければベンヤミンに聞いて下さい」

そう言うと仕事が立て込んでいるのか、そのまま出ていったのだ。

「白い騎士様は、カーラ様と戯れられていいご身分ですな」

出て行きしなにころちゃんに何か言ったみたいだったが、私には聞こえなかった。

「わんわん!」

ころちゃんはフェルディナントに吠えていたが、フェルディナントは手を振って出ていった。


ベンヤミンは私を見る事も無く、遠くの椅子に座って書類を次々にチェックしていった。

私には話しかけづらいみたいだ。まあ、振った私もベンヤミンとは話しずらかった。


ガマガエルの使い魔で気絶させられたサーヤはもっと塩対応だった。

汚い者を見るようにベンヤミンを見ているんだけど、なんかベンヤミンは震えているみたいだった。

そんな様子を見て私は思わず笑ってしまった。


「やっと笑ってくれた」

ベンヤミンがそう言って笑ってくれた。


「ベヤンミン様。私はガマガエルを使者にしたベンヤミン様を許した訳ではありませんからね」

サーヤはそれを見て怒り出したんだけど、

「申し訳なかった。緊急事態だったんだ」

ベンヤミンが謝っていたけれど、

「姫様も、ガマガエルに驚いて気絶されました」

「そうか、カーラ様もガマ君は苦手なんだ」

ベンヤミンはがっかりした顔をした。


「当たり前です。女の子でガマガエルが好きな子はいませんよ」

「そうか、それでアレイダも俺を毛嫌いしていたのかな」

「そうだと思います」

「カーラ様。出来たらガマ君に少しは好意を持ってくれたら有り難いのですが」

私を上目遣いでベンヤミンは見てくれたけれど、私も譲れない矜持はあった。


「絶対に無理です」

「許される訳ないでしょ」

「わんわん!」

私とサーヤの言葉ところちゃんの吠える声が重なった。


「二度とガマガエルのことを言い出したら、いくらフェルディナント様の依頼でも、この部屋から追い出しますからね」

「えつ、そんな」

ベンヤミンはショックを受けたみたいだけど、私にはこれだけは絶対に譲れなかったのだ。

それから二度とベンヤミンはガマ君のことは言い出さなかった。

それに私はそれどころではなくて、大量の予算関係の書類を読み出したのだ。

全然判らなかったけれど……


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