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第89話 ころちゃん視点 フェルディナントの部屋に呼ばれて、自分の名前を当てられました

俺は戦いが終わって、のんびりとカーラの胸の中で眠っていたかった。

子犬に戻ったので、後片付けは全て騎士団とフェルディナントに任せて!


でも、そんな都合良く事が運ぶ訳はない。

俺の正体は国王と騎士団長、それにおそらくフェルディナントも判ってしまったはずだ。


俺が白い騎士でカーラに抱きつかれて、獣化しようとした時、カーラの前から慌てて逃げ出した。


「いや、そうだ。私は少し用を思い出した」

「あの白い騎士様、どちらに行かれるのですか?」

「すまない。今ずくに行かねばならぬ所があるのだ」

「行かないで!」

「カーラ、すまない。今は行かねばならぬのだ」

「きゃあ!」

俺はあろうことか焦ったあまりカーラを振り払ってしまったのだ。

そんなことすればカーラは転けるしかなかった。

「カーラ!」

「白い騎士様」

カーラが伸ばした手を俺はあろうことか、時間がないと無視してしまったのだ。


「すまないカーラ」

「騎士様!」

俺は走り去ったのだ。

逃げる途中で俺はあっという間に獣化してしまった。


「カーラ様。そう、気を落とされずに。ここからは白い騎士殿の代わりに私が御身を守りますから」

フェルディナントの笑い声がした。

でもカーラは納得しなかったみたいだ。


「仕方が無い。あまりこの手は使いたくなかったのですが……」

そう言うと、なんとフェルディナントは俺を物陰から掴んでくれたのだ。

何故だ? 何故俺の場所が判った。

そして、おそらく俺が白い騎士だと絶対にフェルディナントにバレてしまった。


「わんわん!」

俺は逃げようとしたが、フェルディナントは離してくれなかった。

「白い騎士は見つかりませんでしたが、代わりに子犬がいましたから。子犬を愛でて御身を慰めてください」

フェルディナントはそうキザに言って笑うと、俺をカーラに差し出して去って行ったのだ。


大変だ。俺の正体が知られたくないフェルディナントにバレてしまった。

もう俺はこの後どうしたら良いか判らなかった。

国王や騎士団長やフェルディナントにバレて、今後どう対処していいか判らなかったのだ。


しかし、すぐに呼び出しがあると思った国王も騎士団長も俺を呼び出しはしなかった。

フェルデイナントも俺をカーラの前に差し出しただけだった。


しかし、いつ呼び出されるか判ったものではなかった。


特にフェルディナントはカーラを巡ってのライバルだった。

今までカーラとの仲を俺は散々邪魔してきたのだ。フェルディナントは俺に対して恨み辛みは絶対に多くあるはずだ。俺の秘密を盾にして何を言ってくるか判ったものではなかった。


そんなフェルディナントが宰相代理になってベンヤミンがその補佐になったと聞いて俺は驚いたし、ガマ君をカーラに放ったベンヤミンが処刑されずにすんで良かったと思った。

でも、俺を助けてくれたコリーの消息はわからなかった。アレイダと一緒に逃走したとのことだったけれど、無事なんだろうか?

これ以上は調べようがなかった。


宰相代理になったフェルディナントは国王に頼まれたのか、早速カーラの教育に乗り出した。


でも、そのやりようが超スパルタだった。

何も知らない予算の書類をいきなり1日出読めとか絶対に無理だった。

「わんわん!」

俺はフェルディナントに吠えついたのだ。

しかし、フェルディナントは俺の吠えるのを全く無視してくれたのだ。

その上帰り際に「夜に来い」とフェルディナントに言われてしまったのだ。

秘密を握られている俺としては行かざるを得なかった。



俺はカーラが寝静まるとタンスの引き出しを階段状にして再び屋根裏に登った。久しぶりの屋根裏だ。俺には少し懐かしかった。

ずんずん歩いて俺はフェルディナントの待ち構える部屋に行ったのだ。

屋根裏の隙間からフェルディナントの部屋を覗くと、フェルディナントは莫大な資料を傍らに置いて部屋で仕事をしていた。

カーラだけにやらすのではなくて本人自ら仕事をしているようだ。これではあまり何も言えないか……

俺はため息をついた。

その音を聞いていたようだ。


「やっと来たか」

フェルディナントが天井を見てくれた。


仕方がない。

「わん!」

俺は吠えるとフェルディナントのベッドの上に降り立ったのだ。


「ようこそお越しいただけましたな、白い騎士殿、いや今はころちゃんとお呼びした方が宜しいですかな?」

フエルディナントが俺に向かって声をかけてきた。

「ウーーーー」

俺は一応唸ってみた。

「白い騎士殿。吠えるとか唸るではなくて人間の言葉は話せないのですか?」

フェルディナントが質問してきた。

「わんわん」

俺はそう吠えると首を振ったのだ。


「なるほど、獣人は獣化すると人間の言葉が話せなくなるのですな」

感心したようにフェルディナントが頷いていた。

「でも、それでは意思の疎通がとても難しくなりますな。筆で文字は書けるのですか」

「わんわん」

俺は苦手だと言ってみた。

「まあ、子犬では手足をうまく使えませんな」

フェルディナントは納得したみたいだった。


「白い騎士殿は獣人とみて宜しいですな。マクシム王子」

俺は自分の名前を呼ばれて唖然とした。


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