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第90話ころちゃん視点 フェルディナントに虐められた後に獣人に襲いかかられました

俺は唖然としてフェルディナントを見た。


フェルディナントはどうやって俺の本名と地位を知ったのだろう?

俺にはそこがよく判らなかった。

サウス帝国の暗部が優秀なのか?

そうか、ひょっとして異母兄の手のものがサウス帝国にも回ったのか、と一瞬ヒヤッとした。


「驚いた様子だな。白い騎士殿、いや、マクシム殿下とお呼びすべきか」

平然とフェルディナントはしているんだけど、

「何故、名前がわかったか不思議に思われているのか?」

フェルディナントはニタリと笑ってくれた。


「元々獣人王国の王子が獣化すると子犬にしかなれなかったと言う噂が我がサウス帝国にも伝わっていた。しかし、その王子はその事を恥じて剣の道に走って必死に訓練して剣の腕前は剣聖並みになったという話だった。

俺としてはそんなことがあるはずはないと信じていなかったのだが、白い騎士殿の剣さばきはまさしく剣聖並みの強さだ。そして、白い騎士殿が消えた跡には白い子犬しかいなかった。これだけ状況が揃えば誰でもわかる話ですよ、マクンシム殿」

フェルディナントに説明されると確かにその通りだった。


「さて、さて、困りましたな。白い騎士様の本当の姿が判ってしまいました。臣下としてはこのことをカーラ様に伝えなければなりませんな」

フェルディナントはそうほざくとニタニタと笑ってくれたのだ。

「わんわんわんわん!」

俺は必死に止めてくれと頼んだ。

ここでフェルディナントにばらされたら俺がカーラと一緒に風呂に入ったことや夜一緒に寝ていたことがカーラにバレるのだ。その素肌も全て見ていた。そんなことがカーラにバレたら、二度と俺とは口をきいてもらえないだろう。


「マクシム殿は私に黙っていて欲しいと言われるのか? しかし、黙っているメリットが私にはないと思うのだが」

「うーーーー」

俺は唸ってフェルディナントを恨みがましく睨み付けた。


「はははは、冗談ですよ。別にあなたの正体をカーラ様にばらしても私が得するとは思えませんし」

俺はフェルディナントの言葉を聞いて少しほっとした。


「しかし、第二王子のあなたが何故こんなところにいらっしゃるのかはとても不思議ですが……」

フェルディナントは俺を見つめてくれた。こいつはどこまで知っているんだろう?

俺はフェルディナントを睨み返した。

「異母兄のバーレント殿にでも嵌められましたかな」

フェルディナントはズバリと当ててくれたのだ。

「わん!」

俺は仕方なしに頷いたのだ。


「その追っ手から逃れられるために子犬の姿になっておられるのか?」

俺はフェルディナントの質問に首を振ったのだ。

「人間に戻るのは1日に限られた時間しか戻れないとか」

フェルディナントの質問にも俺は首を振ったのだ。

でも、これに答える必要があるのか?

俺が疑問に思いだした時だ。


「まあ、おいおいとその秘密についてはお話願いましょうか」

フェルディナントは俺から視線を逸らした。

「取りあえず、今日はお帰り頂いて大丈夫ですよ。その秘密はまたの機会にお伺いしますよ。今日はあなたの名前が知れて良かった」

そう言うとフェルディナントは机に向き直って仕事に戻った。

もう俺は用なしになったみたいだ。

仕方なしに、俺は自分の部屋に帰ることにした。



俺は飛び上がって屋根裏に戻った。


俺の正体を知ったフェルディナントの狙いはなんなんだろう?

考えられることとしては俺がカーラの前から身を引けと言われる可能性が一番大きかった。

何しろフェルディナントはサウス帝国の第四王子なのだ。

片や俺は追放された子犬にしかなれない獣人元王子だ。

カーラに抱きしめられるとすぐに子犬になってしまうし、子犬ではカーラの護衛の役にも立てない。どこかに潜って情報を探ってくることしか出来ない、役立たずの子犬にしかなれないのだ。


カーラから3日ほど離れていれば人間に戻れるが、それだけだ。

後ろ盾となる国もない単なる一剣士と、後ろ盾にサウス帝国という大国を背負っているフェルディナントでは端から勝負に放っていないのだ。


どうすべきか?


俺は悩んだ。少なくともフェルディナントは人間剣士としての俺の強さは身にしみるほど判っているはずだ。フェルディナントにはいつでも人間に戻れると思われていた方が良いだろう。

女人に触れたら3日間は獣化が解けないなんて欠点をわざわざ恋敵のフェルディナントに教える必要はない。

俺はそう思った。

宰相を処断した今、すぐにカーラに危機が迫ることもあるまい。

今のうちにどうやってフェルディナントに対処するかじっくり考えるようにしようと俺は決意した。


フェルディナントに対する対策を考えるのに忙しくて、俺は注意力が散漫になっていた。

そうでなければもう少し前に危険を察知できたはずだ。


俺は殺気を感じて一瞬で真横に飛んだ。


バキン!

今まで俺がいた位置に大きな熊の手が叩きつけられたのだ。

天板に穴が空いた。

俺は危うく殺されるところだった。


でも、なぜここに巨大な熊がいる?


絶対に獣人だ!


異母兄の放った追っ手か!

俺が気付いた時には第2の攻撃が俺に襲いかかってきた。

俺はそれを間一髪で避けたのだった。



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