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第91話 ころちゃん視点 獣人の暗殺者をフェルディナントが退治してくれました

俺は熊の手を必死に避けた。


熊の獣人は思った以上に動きが素早かった。

次々に俺を倒そうと鋭い爪の付いた手で殴りかかってきた。

俺は必死に飛んでその手を避けた。


熊はそのたびに俺が今までいたところの天井板をその凶器の手で叩いた。

当然天板がただですむ訳はなく、大きな穴が開いていた。

熊はバシンバシン天井に穴を開けてくれていた。


この熊は絶対に獣人だ。

おそらく兄が俺を始末するために送り込んできたのだろう。

でもどうやって入り込んだのだ?

誰かに頼んで中に入れてもらったのか?


でも、そもそも俺がここにいると知っている人間は少ないはずだ。

騎士団長ですら俺の名前をまだ知らないはずだ。

一番怪しいのはフェルディナントだ。奴は俺の名前を当ててくれたのだから。

そのフェルディナントがこいつらを引き入れたのか?


でも、俺を暗殺するためならば先程部屋で始末すれば良かったはずだ。部屋の中に獣人を忍ばせておけば良かっただけなのだから。

密室の中の方が俺の始末をしやすかったはずだ。

とするとフェルディナントは無実の可能性が高い。



さて、ここからどうするか?

俺は熊のパンチを避けながら考えた。


天井でこれだけ動き回れば下でも騒ぎになっているはずだ。

騎士達が駆けつけてくるはずだ。しかし、下手にこの熊を下に落としたら、被害が大きくなる可能性がある。せめてフェルディナントクラスの剣の腕が無いと厳しいはずだ。


「わんわん!」

俺は取りあえず、吠えてやった。

これで何かが潜り込んでいるのが下に人がいれば、階下でも、判ったはずだ。


そして、俺の暗殺を謀ったのなら1体だけと言うことはないはずだ。

まだ二匹、三匹と隠れているはずだ。

しかし、おそらく、そういった連中は階下で邪魔が入らないように見張っているはずだ。


そして、俺が吠えだしたことで焦りだしたはずだ。



俺は熊が天板を叩いて、そこに穴を開けたタイミングで、駆け出した。


熊は追いかけてこようとしたが、落ちないように重心を取るだけで大変みたいだった。

俺は立ち止まって熊を見下してやった。


そして、悠然と目の前を歩いてやったのだ。


「グワオーーーー」

熊は怒り狂って飛びついてきた。


こいつは馬鹿だ。


落ちるつもりなのか?


俺が歩いているところは俺の軽い体重だからこそ落ちないのであって、熊なんて飛び乗ったら一瞬で落ちるはずだ。


俺は熊から飛び退って躱した。


ドシン


でかい音とともに薄い天板に穴が開く。


しかし、熊は下に落ちていかなかったのだ。


えっ?

なんと、そのまま高速で移動してきたのだ。

落ちる前に次の天板に飛び移っていた。

凄まじいスピードだった。

俺は唖然とした。


嘘だろう? 普通は絶対に落ちているはずなのに、熊は天板の上を必死に駆け出したのだ。


やむを得ず俺は必死に逃げ出した。

走りながら俺は考えた。


この熊をどうする?

確実に仕留めるなら、騎士団長の所かフェルディナントの所におびき出すのが確実だった。

取りあえず、フェルディナントの所にこの熊を連れ込んで様子を見てみようかと俺は思った。


こんな騒ぎになっているのならば、俺が飛び込めば後はフェルディナントがなんとかしてくれるだろう。そして、もし、フェルディナントが内通者ならば絶対に何か怪しい動きをするはずだ。

でも、おそらく違うはずだ。


この熊は早かった。

この熊は熊でも、ツキノワグマではなくてヒグマだ。

そしてヒグマの走るスピードは機関車並みものスピードだったはずだ。

子犬の俺では捕まらないだけで精一杯だった。

まあ、俺も子犬といえども獣人だ。

スピードは出せるはずだ。

しかし、俺の必死の走りになんとかヒグマに追いつかれずにすんでいた。

本当に命がけのレースになっていた。

俺のすぐ後をヒグマが走ってくると言う最悪のレースだった。


「わんわん!」

フェルディナントの部屋の近くまで来ると俺はなんとか吠えて、フェルディナントに気付かせたはずだ。


そして、フェルディナントの部屋の真上でステップを踏んで、俺はヒグマを飼わしたのだ。

さすがのヒグマも天板では支えられなかった。


バキッ ドシン!

凄まじい音とともにヒグマは下に落ちていった。


俺もそのまま天板の隙間から飛び降りた。


ヒグマが落ちてきて、さすがのフェルディナントもとっさに反応できなかったみたいだ。


その時のフェルディナントの驚いた顔といったら無かった。


でも、驚いて突っ立っているだけでは殺されるぞ。

「わんわん!」

俺が必死に吠えてやった時だ。


我に返ったフェルディナントが剣を一閃させたのだ。


「ギャーーーー」

熊は胴を斬られて血潮を飛ばして悲鳴を上げていた。


そして、ヒグマはゆっくりと倒れたのだ。


次の瞬間、ヒグマが男の姿に変わった。


その男の顔は見たことがあった。

確かに兄の部下だったはずだ。


「獣人か?」

フェルディナントは驚いた声を出した。


先程の驚きようといい、今の驚きようといい、フェルディナントは知らなかったみたいだ。


では誰が俺のことを兄に告げたのだ?

俺にはそれが判らなかった。


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