私は目の前の男達が獣に代わって唖然とした。オオカミとサルとヒョウだ。
一体何なの?
これがひょっとして獣人という奴なの?
でも、なんで獣人がいるんだろう?
私はよく判らなかった。
でも、獣達は今にも私に襲いかかってきそうだ。
私は逃げようとして、後ろからナイフを突きつけられたのだ。
「動かないで」
それは侍女のデボラだった。
私はデボラに裏切られたことを今知った。
「貴方たちも何故、獣化しているのよ。今はまだ必要ないでしょ」
デボラの声に慌てて男達は人間に戻ったのだ。
私はそれを唖然と見ていた。
これが獣人という者か。
見た目は本当に人間と変わらなかった。
確か東方に獣人の国があったはずだ。
この者達はそこから来たのだろうか?
「ふんっ、つい獣化してしまったまでよ」
男の一人が言った。
「マクシム王子が来たのかと思ったのだ」
「マクシム王子は今はいないわ。カーラ様。マクシム王子はどちらにいらっしゃったの?」
「マクシム王子?」
デボラが聞いてきたが、私は何のことか理解していなかった。
「誤魔化さなくても良いわ。マクシム王子よ、フェルディナント様と一緒にいる」
「フェルディナント様は知っていても、マクシム王子なんて知らないわよ」
私はありのままを答えたのだ。
「白々しいわね。あなたを助けた、白い騎士様の事よ」
「えっ、白い騎士様はマクシム様というお名前なの?」
私は初めて白い騎士様の名前を知ったのだ。これほど嬉しいことはなかった。
「はああああ? あなた知らなかったの? じゃあ、ころちゃんがマクシム王子だということも知らなかったの?」
「えっ、ころちゃんがマクシム王子つて何を馬鹿なことを言っているのよ。そんな訳無いじゃない! 白い騎士様は人間よ。子犬じゃないわ」
私は言い返したのだ。
「カーラ様。あなた今、この者達が獣化したところを見なかったの?」
驚いたようにデボラが聞いてきた。
「えっ、ひょっとして白い騎士様も獣人なの?」
そんな、馬鹿な!
私には信じられなかった。
「そうだよな。獣人王国の王子が子犬だなんて本当にお笑いぐさだぜ」
男の一人が笑ってくれたのだ。
「本当に、みっともないよな」
「王子が子犬なんて前代未聞だ」
男達が笑って馬鹿にしてくれたが、私はその言葉にぷっつんキレてしまった。
「何言っているのよ。白い騎士様は立派な騎士様よ。獣人は獣化する動物は選べないって聞いたことがあるわ。それが子犬だからって馬鹿にするのは止めてよ」
私は男達に向かって啖呵を切ったのだ。
「ほおおおお、威勢の良い王女様だな」
「自分の立場が判っているのか」
男達が私に向かって来た。
私は下がろうとしたが、デボラがナイフを突きつけているので下がれなかった。
一人の男が、手で私の顎を掴んでくれた。
「離しなさい」
私はそう言うと、男の手を振り払ったのだ。
「この尼!」
パシン
「キャッ」
私は男に頬を張られて、倒れていた。
「痛い、何するのよ」
私が言うと、
「ほおおおお、殿下にはカーラ王女は殺して良いと言われているんだ。何なら、今から殺してやろうか」
いやらしい笑みを浮かべて狼男がナイフを握ってくれた。
えっ
私は冷や汗が出た。
「ねえ、兄貴、こんなべっぴん、めったにいませんぜ。どのみち殺すなら皆で楽しんでから殺しましょうよ」
その横のサル男が言い出してくれた。
私は青くなった。こんな奴らに慰み者にされるくらいなら舌を噛み切って死んだ方がましだ。
私が舌を噛み切ろうとしたが、サル男がその瞬間、指を口の中に入れてくれたのだ。
「痛い!」
かみ切ろうとした私の邪魔をして、男は思いっきり私に指を噛まれていた。
「何しやがるこの尼あ!」
サル男は思いっきり私を張り倒してくれた。
「キャー」
私は地面に叩きつけられていた。
「貴方たち、止めなさい。この女はマクシム王子をおびき寄せる餌なんだから、それ以上傷つけないで」
デボラが男達を制してくれた。
「デボラ、それはないぜ」
「煩いわね。私はこの女さえ、殺してくれたら、アレイダ様の恨みは晴らせるから良いけれど、ブラームス達の王子殿下はそれでいいの?」
「おい、その女の言う通りだ。止めるんだ」
ブラームスと言われた狼男は手下達に手を振った。
私はあっという間に縛られてしまったのだ。
舌をかみ切らないように猿ぐつわを嵌められた。
これではどうにもならない。
「ちぇっ」
サル男は残念そうに首を振ってくれた。
「まあ、そう、残念がるな。マクシムさえ殺せば、後はどうなっても良いんだ。その後はこの女をどうしても良いぜ」
男は笑って言ってくれた。
「でも、マクシム王子はどこに行ったんだ?」
「お嬢様を裏切ったフェルディナントと一緒に外に視察に行ったみたいよ」
外で聞き込みをしてきたデボラが教えてくれた。
「いつ帰って来るんだ」
「さあ、それは判らないわ」
「王女をいつまでもここに監禁しておけるのか?」
ブラームスが聞いてくれた。
そうよ。サーヤが今に探しに来てくれると思うわ。
私はサーヤに期待したのだ。
「大丈夫よ。お嬢様はフェルディナント様に呼ばれてフェルディナント様のお部屋で作業していることにしたから」
何ですって!
私は絶望した。少なくともフェルディナントが帰って来るまではサーヤは探しにも来ないだろう。別の雑用の仕事が溜っていると今朝もボヤしていたから、これ幸いと作業しているはずだった。
「ブッチ、お前はこの女を見ていろ。俺達は周りの様子を見てくる。」
そう言うとブラームス等は立ち上ったのだ。
えっ、このサル男だけを残して行くの?
私は青くなった。
「いざという時の逃走経路も確認しておいた方が良いだろう」
「そうね」
合図して、デボラ達は出ていったのだ。
ちょっと待ってよ!
男達が出た途端に、いやらしい笑みを浮かべてサル男が近付いてきたのだ。
いや、助けて!
私は心の中で白い騎士様を呼んだのだ。