俺は兄の手下の獣人共を片付けて、メリーを訊問終えた時だ。
「おい、大丈夫か?」
そこに音を聞きつけたフェルディナントらが飛び込んできた。
「フェルディナント、ここは頼む」
俺はそう言うと飛び出そうとした。
「どこに行く?」
飛び出そうとした俺を慌ててフェルディナントが捕まえて聞いてきたが、
「カーラを獣人の別働隊が襲おうとしている」
振りほどきつつそう叫ぶと俺は外に飛び出したのだ。
「おい、待て!」
フェルディナント等は追いかけてくるみたいだが、構ってはいられない。
ブラームスらの特殊部隊は非情で残酷だと有名なのだ。一刻も早くカーラの所に戻らないと
!
往来に出るとフェルディナントの騎士達が2名残っていた。
「おい、馬を一匹借りるぞ」
俺はそう叫ぶと騎士の目の前にいた馬に飛び乗ったのだ。
「おい、何をするんだ」
「し、白い騎士様!」
今は一秒とて無駄に出来ない。
俺は叫び声を無視して、馬のくつわを取ると思いっきり馬を走らせたのだ。
そのまま一気に王宮に向かった。
途中の往来の人々を轢きそうになりながら。
そのまま一気に王宮に駆け込む。
「何奴だ?」
「白い騎士様?」
門番達は国王とカーラを助けた俺を覚えていてくれたみたいだ。
「馬を頼む!」
俺は馬を門番に渡して、カーラの部屋に向かって駆けた。
でもカーラの部屋には侍女のニーナしかいなかった。
「白い騎士様!」
驚いたニーナは俺に声をかけてきた。
「カーラはどこだ」
「今デボラと一緒にフェルディナント様の部屋に行っています」
「何だと、デボラと一緒にだと!」
俺はカーラの新しい侍女の名前がデボラだと初めて知ったのだ。それは獣人達を手引きした女だ。
俺は慌てて、フェルディナントの部屋に向かったが、部屋には護衛の騎士しかいなかった。
カーラはどこに行ったのだ?
部屋を片っ端から調べるか?
でも、ブラームス等がカーラを襲おうとしている中でのんびりと探している暇はない。
その時だ。
「マクシム様!」
俺はカーラの声を聞いたような気がした。
俺を呼ぶ悲鳴をだ。
こうはしていられない。
俺がそう思った時だ。
「マクシム様!」
もう一度カーラが呼ぶ声が聞こえたような気がした。
ここじゃ無い!
カーラの部屋の近くだ。
何故か俺にはその位置が判った。
俺は必死に駆けた。
「白い騎士殿?」
俺は途中で騎士達に声をかけられたがそれどころでは無かった。
俺は必死に駆けたのだ。
嫌あああああ!
カーラの悲鳴が聞こえたような気がした。
この扉の向こうか!
中に人の気配がする。
扉を開けようとしたが、施錠されていた。
俺は剣で扉を叩き斬っていた。
ドカーーーーン
大音響と共に扉が吹っ飛んでいた。
そこにはカーラに抱きついているサル男を見つけたのだ。
カーラは必死に男から逃げようとしていた。
俺はそれを見てぷっつんキレた。
「き、貴様、マクシム。なぜここに?」
サル男は怒り狂った俺を見て恐怖に震えたように見えた。
慌てて逃げようとしたサル男を
「カーラから離れろ!」
俺は思いっきり蹴飛ばしていた。
「ギャーーーー」
俺様に蹴飛ばされたサル男は吹っ飛んでいた。
ドシン!
そのまま壁に激突した。
地面に落ちたサル男はピクリとも動かなくなった。
「カーラ、大丈夫か!」
俺はカーラに思わず駆け寄って思いっきり抱きしめていた。
「良かった、何もなくて」
俺が言うと
「うううう!」
カーラは話せないみたいだった。
カーラは両手両足を縛られて猿ぐつわまでされていた。
「すまん。辛かったろう」
俺は慌てて剣を抜いて、縛っていたロープを切り裂いた。
「マクシム様!」
カーラは俺に抱きついてきたのだ。
「えっ?」
しかし、その瞬間何故カーラが俺の名前を知っているのか不思議に思ったのだ。
「な、何故私の名前を」
「獣人のブラームス等に教えてもらいました」
「何だと、ブラームスがもう来ているのか?」
俺は慌ててカーラを見た。ブラームス相手によく無事だったものだ。
「カーラ、もう、大丈夫だ」
俺はそう言うとカーラを力強く再度抱きしめてた。
カーラはその俺の胸で泣いてくれた。
カーラを泣かすなんて許せない。
ブラームスは絶対に俺が始末する。
そう思った時だ。
「あっ」
俺は女と接触したら子犬に戻ることを思い出したのだ。ブラームスがここにいたのならばすぐに戻ってくるはずだ。このままではまずい。
「カーラ、私は行かねば」
俺は慌てた。
「いや、離さないで。もうどこにも行かないで!」
カーラはあろうことか更にきつく俺に抱きついてきたのだ。
心臓がドクンドクン鳴ってまずい。このままでは獣人化してしまう。
「いや、そういう訳にはいかない。カーラ」
俺は必死にカーラを引き剥がそうとしたが、
「嫌! 絶対に嫌です!」
カーラは力の限り俺に抱きついてくれたのだ。
普通は喜ぶべき事だったのだが、
「いや、カーラ、本当に駄目なのだ」
俺は慌ててカーラを強引に突き放そうとした。
「あっ」
でも、その時だ。
俺は金色に光ったのだ。そのままあっという間に子犬に戻ってしまった。
やってしまった!
それもカーラに俺がころちゃんだとバレてしまった。
最悪だ。
「ころちゃん。あなた、マクシム様だったのね。ブラームスから言われた時は本当だとは到底信じられなかったけれど……」
カーラがそう言って俺を思いっきり抱きしめてくれた。
カーラに嫌われないで俺はほっとした。
「でも、マクシム様。何故、今、ころちゃんになってしまったのですか?」
カーラが不思議そうに聞いてくれた。
本来ならば抱きつかれたらとても嬉しいことなんだけど。
今は非常時なんだけど。
「クーーーーン」
カーラが俺に抱きついて離さなかったからだ!
俺は恨めしそうにカーラを見たけれど、当然カーラに犬の言葉が判る訳は無かった。
その時だ。
入り口に人影が現れた。
「ほおおおお、これはこれはマクシム王子。わざわざ捕まるために俺達の前にお出まし頂けるとは有り難いことですな」
この最悪のタイミングでブラームス等3人が現れたのだった。