今まで目の上のたんこぶだった、マクシムを暗殺する。
俺の掲げた目標だった。しばらく行方不明だったマクシムの行方がやっと判ったのだ。
俺はただちに一番信頼する特殊部隊のブラームス等を暗殺に向かわせた。
俺はその成功の報を今か今かと国境の町で待ち望んでいたのだ。
探しても見つからなかったマクシムは、なんと、モルガン王国とかいう俺が気にもしていなかった小国に滞在しているというのだ。なんでも、その王女のペットをしているらしい。
俺はそれを聞いて思わず笑いそうになった。気高い獣人王国の王子のマクシムが生き残るために王女のペットになるなんて。最低なことだった。獣人王国の面汚しだ。
確かに子犬にしか獣化出来ないマクシムにお似合いの役割だったが……
まあ、でも考えようによってはこれほどお似合いのことはなかった。第一王子が小国の王女のペットか! それを知れば大半の家臣が俺に付くだろう。
俺もマクシムを捕まえて奴隷商人か何かにペットで売らせれば良かったか。
そうすれば高値で売れたかもしれない。あるいは南北の帝国の皇女や皇后に高値で売ってくれば喜ばれたかもしれない。男娼ペットとして、見た目は子犬で殿方にもバレませんとか……
本当に笑えた。
「まあ、ペットならばそのまま置いておいても良かったかもしれんな」
俺はふとそう思ったのだ。
まあ、後顧の憂いを絶つためにも殺すことは必要だったが……
「何かおっしゃいまして?」
俺のとなりに寝ていたアレイダが聞いてきた。
今回はこの女の為にその王女諸共殺すことにしたのだ。
まあ、モルガン王国なんて小国の国主が誰になろうが俺は構わなかったが、獣人王国の王太子の側妃が国主というのも良い物だ。モルガン王国がいかに小国とはいえ、俺様の箔付けにはなるだろう。
俺は吉報を待つ間暇だったので、俺はその日も拠点にしている王国の端の町の宿屋でアレイダとベッドを共にしていた。
「申し上げます」
その中にノックもせずに護衛騎士が飛び込んできたのだ。
「どうした! うまくいったか!」
俺は情事を中断してその無礼な兵士に尋ねていた。
「申し訳ありません。お励み中でしたか?」
兵士が慌てて出ていこうとしたが、結果だけは聞きたい。
「構わん。何事だ?」
俺は聞いていた。
「はっ、モルガン王国にマクシム王子とカーラ王女の殺害を目的に潜入したブラームス等特殊部隊の面々はマクシム王子の手にかかって大半が死亡した模様です」
「なんだと!」
俺はその報告に驚いた。
「20名以上を投入しただろうが」
今回俺は特殊部隊の精鋭を放り込んだのだ。それも20名も。いくらマクシムが剣の使い手だとはいえ、それだけいれば楽勝のはずだった。
俺がそう指摘すると
「アレイダ様から協力頂いて築いたモルガン王国の拠点を、マクシム王子らに急襲されて10名以上が殺害されたのです」
「なんだと、アレイダ、その方裏切ったのか」
俺が驚いてアレイダを睨み付けると
「滅相もございません。私が裏切って何の得があるのですか? 獣人王国のバーレント様の庇護あっての私ですのに」
アレイダの答えに俺は考え込んだ。
確かにアレイダの言う通りだ。こいつがマクシムについても1銭の得にもなるまい。俺に付いていればいずれモルガン王国の女王になれるのだ。我が獣人王国の属国として。それ以外にこいつが女王になろうと思えばその母の実家のノース帝国をバックに攻め込むしかないが、政権の中枢部にはこいつの弟もいるというのだ。ノース帝国としても下手に手は出せまい。政権におもねったところで反逆者の娘が女王になることはないだろう。やはりこいつは俺様を頼るのが一番得になるはずだ。
しかし、せっかくの秘密の拠点を急襲されるとはどういう事なのだ?
俺は偵察部隊がマクシムを急襲して失敗したのを知らなかったのだ。
そこから、不審者をマクシムが割り出して調べるとは思いもしなかった。
「ブラームスはどうしたのだ?」
「生き残った者によるとブラームス様たちはその時既に宮殿に潜入されていたとのことですが、これもマクシム様暗殺に失敗してブラームス様は殺されたそうです」
俺は爪を噛んでいた。
なんたることだ。俺の使える最精鋭を向かわせたのだ。それがこの結果だ。
獣人族は力がある分、どうしても奸計に嵌りやすくなる。謀も苦手だ。それで散々人間達に嫌な目に合わされてきた。我が獣人王国が力を持つまでは奴隷としても沢山同胞が売られていたという。今は獣人王国がにらみをきかせているから獣人の奴隷は少なくなったと聞いている。南北の帝国にしてもわざわざ獣人王国と事を構えたいとは思わないだろう。
しかし、マクシムを殺そうとして失敗するとは思ってもいなかった。
ブラームスはマクシムが少人数だからと油断したんだろうか?
いや、ブラームスに限ってそんなことはないはずだと思いたかったが、結果は失敗した。
やはり俺自体が向かわねばいけなかったか?
俺は後悔した。
やむを得まい。俺はマクシムを始末するために自らが出ることを決意したのだった。