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第107話 フェルディナント視点 父の意向に如何に従うか考えました

宰相の反乱が終わった時、俺ははたっと困ってしまつた。


大使のフィン・アーレンツの言うことに逆らってカーラに付いたのだが、その大前提が俺がカーラと婚姻を結ぶことだった。しかし、今回の宰相の討伐で一番の功があったのは白い騎士だった。その上どう見ても王女のカーラが惹かれているのも白い騎士だった。


白い騎士の腕前は確かに凄まじいものがあった。おそらく我が国の剣士でも誰も勝てないだろう。とすると俺がカーラの婚約者として立つ訳にも行かない。

何しろ俺はあの騎士とやり合って勝てるとは到底思えなかった。


でも、それで父が納得するかというと絶対しないということだけは判った。どんなことをしてでも婚約者になれと言ってくるだろう。それに対してどうするかだ。


しかし、それ以前に白い騎士はなんとカーラの子犬のころちゃんだったのだ。

宰相討伐に一番功のあったマクシムが子犬になったと誰が思うだろうか?

俺はそれを知った時に唖然とした。

しかし、白い騎士が慌てて立ち去った後にカーラの子犬がいたのだ。

何故白い騎士が子犬になっているんだ?

俺にはよく判らなかった。

でも、獣に変身出来るのは獣人だけだ。

そこで俺ははたと気付いたのだ。

白い騎士は獣人に違いないと。


すぐに我がサウス帝国の諜報網に調べさせた。

白い子犬に獣化して剣術が得意なのはマクシム王子しかいないと言う報告が上って来るまでにそんなに時間はかからなかった。


そうか、あの子犬はマクシムだったのか!

俺は初めて理解した。獣人王国の王子か!

カーラの相手としては十分だ。

しかし、彼は一応獣人王国の継承権第一位だ。

カーラの身分よりも上なのだ。

ここに俺がつけいる隙があった。奴はいずれ獣人王国に戻らないといけない。そこを付くべきだろうと。俺はそう結論づけたのだ。


でも、それ以前にマクシムは何故子犬になってしまったんだろうか?

それに大半の時間をマクシムは子犬で過ごしているようだった。

呪いか何かかけられて数分間しか人間に戻れないのかもしれない。

そう考えれば多くのことは辻褄が合った。


獣人国に探りを入れると確かにマクシム王子はここ数ヶ月表舞台からは消えていた。

我が国の諜報網は優秀で異母兄と仲が悪いということまで探ってきてくれた。

おそらく、異母兄との戦いで何かあって今はこの地に身を潜めているだけなのだ。


ここまで探って俺はマクシムと対決したのだ。


夜に呼ばれたマクシムは屋根裏から入ってきた。

「ようこそお越しいただけましたな、白い騎士殿、いや今はころちゃんとお呼びした方が宜しいですかな?」

俺は話しかけてみた。

「ウーーーー」

でも、白い犬は唸っただけだった。

「白い騎士殿。吠えるとか唸るではなくて人間の言葉は話せないのですか?」

俺の問いに

「わんわん」

子犬は吠えただけだった。

「なるほど、獣人は獣化すると人間の言葉が話せなくなるのですな」

俺は頷いた。

「白い騎士殿は獣人とみて宜しいですな。マクシム王子」

その言葉に子犬もといマクシムは唖然としたようだった。


「驚いた様子だな。白い騎士殿、いや、マクシム殿下とお呼びすべきか」

俺は子犬を見据えた。

「元々獣人王国の王子が獣化すると子犬にしかなれなかったと言う噂が我がサウス帝国にも伝わっていた。しかし、その王子はその事を恥じて剣の道に走って必死に訓練して剣の腕前は剣聖並みになったという話だった。俺としてはそんなことがあるはずはないと信じていなかったのだが、白い騎士殿の剣さばきはまさしく剣聖並みの強さだ。そして、白い騎士殿が消えた跡には白い子犬しかいなかった。これだけ状況が揃えば誰でもわかる話ですよ、マクンシム殿」

「さて、さて、困りましたな。白い騎士様の本当の姿が判ってしまいました。臣下としてはこのことをカーラ様に伝えなければなりませんな」

俺はニタリと笑ったのだ。

「わんわんわんわん!」

マクシムは必死に抵抗してきた。

「マクシム殿は私に黙っていて欲しいと言われるのか? しかし、黙っているメリットが私にはないと思うのだが」

「うーーーー」

「はははは、冗談ですよ。別にあなたの正体をカーラ様にばらしても私が得するとは思えませんし、第二王子のあなたが何故こんなところにいらっしゃるのかはとても不思議ですが……異母兄のバーレント殿にでも嵌められましたかな」

「わん!」

子犬は頷いてくれた。

「その追っ手から逃れられるために子犬の姿になっておられるのか?」

俺の質問にも頷いてくれたのだ。

さて、ここまで判ったのだ。後は少し考える必要があろう。

これからゆっくりと対策を考えるかと俺はその日は子犬を帰らせたのだ。



「わんわん!」

でも、帰ってしばらくすると子犬のただならぬ叫び声が聞こえたのだ。

俺が身構えた時だ。


バキッ ドシン!

凄まじい音とともに今度はヒグマが落ちてきたのだ。

俺の驚きと言ったらなかった。

とっさに反応できなかった。


「わんわん!」

マクシムの叫び声で俺は我に返ったのだ。

手に持っていた剣を一閃させたのだ。

「ギャーーーー」

ヒグマが血を吹き出して倒れ込んだ。

次の瞬間、ヒグマが男の姿に変わった。

「獣人か?」

俺の問いに子犬が頷いた。

いきなり刺客が現れて俺は驚くしかなかった。

結局その日は安全面も考えて子犬のマクシムを俺の部屋に泊めるしかなかったのだった。


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