何だ、この書面は!
国王の見せてくれた手紙に俺はさすがにむっとした。
俺は父や母には愛されていると思っていた。
なのに、俺が異母兄に殺されそうになったのに、父の答えが自力でなんとかしろってどういう事だ?
俺が行方不明になってから今まで何もせずに捨て置いたくせに、見つかった途端に理不尽な兄は自分でなんとかせよとはどういう意味だ!
俺は完全にキレていた。
そんな俺の足下を猫が歩いていた。
生意気そうな顔の猫だ。
猫が……猫?
俺は剣を抜いて、その猫の自慢そうに振りまいている鼻の先の地面に剣を突き刺したのだ。
「ギャーーーーー」
猫が悲鳴を上げた。
そして、それと同時に、人間化した。
「マクシム様。酷いではないですか! いきなり抜き身の剣を目の前に突き刺してくれるなんて」
俺の目の前に父の側近のドリース伯爵が現れたのだ。
周りの皆は驚いていた。騎士達は抜刀していた。
「ふんっ、下らん書面を送ってくるからだ。この書面はどのみち貴様の仕業であろうが」
俺は周りは無視してドリースを睨み付けた。
「まさか、そのような。私のような下っ端の言うことなど陛下がお聞き届けになる訳はありませんでしょう」
ドリースが自慢たらしく話してくれるが、自慢するところではないだろう!
「マクシム殿、そちらの方はどなたじゃ?」
国王が聞いてきた。
「陛下。申し訳ありません。彼は獣人王国の国王の側近のドリース伯爵です」
「これはご挨拶が遅れました。私めは獣人王国の陛下の側近を務めさせて頂いているドリースと申します。以降お見知りおきを」
ドリースが国王に跪いた。
「これは丁寧なご挨拶に痛みいる。私がこのモルガン王国の国王です。ようこそいらっしゃったドリース伯爵」
国王はドリースに挨拶をしてくれた。
その後全員を紹介してくれる。
「で、ドリース殿。今回獣人王国の陛下のお手紙を貴殿が届けてくれたと思うのじゃが」
陛下はドリースを見た。
「さようでございます。さすが陛下。そこまで判りましたか」
ドリースは驚いた顔をしているが、こいつは何を白々しいことを言ってくれているのだ。手紙と同時に現れたのだから、運んで来たに違いないではないか!
「次からは黙って儂の机の上に置くのではなくて、門番を通して頂けると有り難いが」
国王はチラッと嫌みを言ってくれた。
此奴はまた無断侵入してくれたようだ。
「申し訳ありません。ついお懐かしい方の匂いがいたしましたので」
「白々しいことを」
俺がドリースを睨み付けた。
「それで、ドリース殿。獣人王国の陛下のこの書面ですが、いささかマクシム殿にとってきついのではないかと思うのだが」
「我が獣人王国の方針でございまして、自らに降りかかった火の粉は自ら対処するのが我が獣人王国の伝統でございます。『王位を継げるかどうかは全ておのれの実力で勝ち取れ』と陛下はおっしゃいました」
いけしゃあしゃあとドリースは話してくれた。
「何を言う、ドリース。そもそも俺が兄者に襲われたのは不意打ちで、そもそも王位継承とこの不意打ちは別物であろうが!」
俺は激高してドリースを問い詰めたが、
「マクシム様。そのように怒られていては話しも出来ないではありませんか」
「貴様が怒らせているのであろうが!」
俺は更に激高したが
「まあ、マクシム様。差し出がましいようですが、マクシム様のお怒りもごもっともですが、ここは最後までドリース殿のお話を聞いて見るのも肝心かと」
「まあ、カーラ殿がそうおっしゃるのならば」
俺はカーラに言われたら黙るしかなかった。
「これはこれはお綺麗な方ですな。朴念仁と言われたマクシム様が首ったけなのもよく判ります」
「ドリース!」
「まあ、ドリース様もお上手ですのね」
俺がドリースに怒るのと
カーラが頬を押えるのが同時だった。
「で、ドリース殿。続きをお伺いしようか」
陛下が促してくれた。
「陛下がおっしゃるには今回バーレント様がマクシム様を襲ったところから王位継承の争いは既に始まっている。故に陛下はそれに対して手は出さぬとおっしゃったのです」
ドリースがさも悪そうに言ってくれるが、絶対にこいつが父等に働きかけたに違いないのだ。
俺は思わず皆の前でドリースを叱責しそうになった。
でも、その瞬間カーラと目があって俺は口を塞いでいた。
「なるほど。これはマクシム様とバーレント様の個人的な私闘だとおっしゃるのですね」
カーラはドリースに確認していた。
「さようにございます」
「しかし、私、バーレント様の手下に襲われたんですけれど、それは獣人王国の責任はないとおっしゃるのですか?」
カーラがドリースを責めた。
「いえ、それは私闘とは言え、他国の方に手を出すなど言語道断。全く無関係なカーラ様にバーレントが手を出したと言われるのならばその点については我が獣人王国にも非がありましょう」
「何か歯に物が挟まった言い方ですわね。何が言われたいのかしら?」
「カーラ様を襲わせたのは前宰相閣下の娘だと聞いております。これは先のお家騒動の続きではございますまいか」
「何だと、ドリース! カーラ殿は俺とバーレントの争いには関係無いではないか」
俺は思わずドリースの胸ぐらを掴んでいた。