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第113話 獣人王国国王の側近の独り言

私は獣人王国の国王陛下の側近のドリースだ。陛下からは伯爵位を拝領している。

私は主に陛下に情報をいろんな所から集めて報告することだ。

直近の仕事としてはお二人の王子のどちらが皇太子になるのにふさわしいかを調べることだった。


陛下にはお子様が2人いた。一人目は側室腹のお子様で本来は皇太子にはなるには不利なのだが、この皇子は獣化すると虎になったのだ。

お二人目は王妃様腹で、本来ならば一番皇太子に近いはずなのだが、獣化すると子犬になってしまった。


そう、そう、判明した瞬間、急激に王太子が遠のいたのだ。


獣人王だから獣化して何になるかも大きなポイントだったのだ。


国王陛下が何に獣化するか、虎から始まってライオン、ゴリラ、キリンもいた。アライグマ、狸、狐もいた。しかし、未だかつて子犬が獣人王になったことはなかったのだ。

この議論は下々の者も巻き込んで喧々諤々多いに論ぜられた。

巷ではどうしても見た目が重視で、虎のバーレントが有利だった。


ただし、陛下としては王妃様のお子様を王太子にしたいみたいだった。

巷の意見を聞ク限りはマクシム様はとても不利だった。


しかし、次男のマクシム様は自分の獣化が思わしくないので、剣術に死にもの狂いで取り組まれたのだ。その結果、その剣の腕は大陸随一とも言われるようになったのだ。

その結果、重臣達の意見が真っ二つに分かれたのだ。

見た目重視派は虎のバーレント様を推し、剣術重視派はマクシム様を推したのだ。


陛下も側近の俺達もこれには悩んだ


だが、そんな時にいきなりマクシム様が行方不明になられた。

バーレント派の連中はマクシム様が見た目が子犬であるのを恥ずかしがって雲隠れしたに違いないと主張したが、それは信じられなかった。

大方、いつの間にか情勢が判らなくなったバーレント派が何かをしでかしたに違いないと俺は思ったのだが、その証拠はなかった。

そんな時だ。陛下に我が国の西部に位置するモルガン王国と言う小国から親書が届いたのだ。

何事だといぶかしんで中を見ると、怪我した子犬を治療したら獣人王国のマクシム王子殿下だったと知らせてくれる書面だった。


やはり判らなくなった状況を変えるためにバーレントが良からぬ事を企んだに違いなかった。

普通の国ならばこれはバーレント王子が殺人容疑で逮捕される場面だ。

俺はそう主張しようとした。


「いや、そもそも、これは王位継承争いです。バーレント様がふがいないマクシム様を攻撃されただけです

宰相補佐のドグモントが言いだしてくれた。

「何を言っているんです。それは正々堂々と正面から後継者争いをしている場合でしょう」

俺はそう主張した。

「そうだ。そうだ」

一部の人間も俺の言葉に頷く。

「しかし、こうなった以上は2人に任せるべきではありませんかな。どちらが強いか、強い方が我が獣人王国の王にふさわしいでしょう」

俺の意見はしかし、ドグモントに流されたのだ。執務室にいる面々もドグモントに頷くものも多く、陛下と言えども覆すことは出来なかった。


「ドリース」

「はっ」

俺はそんな中、陛下に直々に呼ばれたのだ。


「お前が2人にこの件を伝えてくれるか」

「私がでございますか」

「そうだ。そして、その反応を見るのだ」

「反応をですか?」

「その方ならばどちらが将来の国王にふさわしいか判断できるだろう。儂はそれをその方に期待する」

「かしこまりました。直ちに両者に面談して伝えて参ります」

俺は陛下に頭を下げると2人に会うべくその地に向かったのだ。


バーレントについて探ると国境の町にいるとの情報が入ってきた。

その町で周りのものに尋ねると、すぐにバーレントの居場所は判った。とても不用心だと言えた。


俺はそのままバーレントに会いに行ったのだ。


「貴様は父上の腰巾着の猫か」

会うなりバーレントは俺を見下してくれた。

いつものことだ。

バーレントは獣化した動物が自分の虎よりも弱そうな相手を見下す傾向にあった。

なんて嫌な奴なんだと俺は思った。


「これはバーレント様、お久しぶりです。陛下の側近のドリースです」

俺は嫌悪感を作り笑いの笑顔の下に隠した。

「ふんっ、確かそう言う名前だったな。で、何用だ?

俺様は今忙しいのだ。

俺が陛下の後を継ぎそうだと判って俺様にすり寄りにきたのか?」

こういう生意気な奴だった。俺は早くも帰りたくなってきた。

一緒の空気も吸いたくなかつた。

「いえ、陛下より伝言をお預かりしてきました」

「ふんっ、何だ? さっさと言え」

バーレントは陛下からの伝言だと俺が言ったにもかかわらず、その言葉を尊重しようという心構えも無かった。自分が既に王太子に任命されるものだと思っているようだった。

俺はこんなところからさっさと用件だけ伝えて去ろうと思った。


「ではお伝えします。 陛下はあなた様とマクシム様が王位継承権をかけた決闘状態にあると認識されています」

「そうか。父上は、マクシムを倒せば俺を王太子に任命してくれるというのだな」

バーレントはにやりと笑ってくれた。

「さようでございます」

「父に伝えよ。絶対にマクシムを倒して俺が王太子の地位をもぎ取りますとな」

そう叫ぶとバーレントは直ちに側近達を集めて悪巧みを始めてくれたのだった。

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