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第31話 二面性

「あ、これも美味しいですよ」

「わぁ! 本当ですね! どれも、とっても美味しいです!」


 ゲールに勧められた料理に、フローラも味わいながら感動している。

 会う前の緊張が嘘かのように、落ち着いてフローラをリードするゲール。

 その振る舞いは完全にマジラブの時と同じで、あまりのキャラの変わりように私は感心しながら見守る。


 ――というか、もう私は不要なのでは……?


 あまりに上手いゲールのリードに、最早私のすることなど何もなかった。

 まぁ上手くいっているならそれでよし。

 二人のやり取りを見守りながら、三人で美味しい食事をいただく時間は純粋に楽しいのだ。


「あ、すみません。少し席を外しますね」


 そのまま食事会は和やかに行われ、暫くしたところでフローラが席を立つ。

 お手洗いだろうと私も一緒に席を立とうとすると、ゲールがじっとこっちを見ながら微笑みかけてくる。

 その表情は、絶対に私は席を離れるなと言っているようで、その圧に気圧された私は仕方なくフローラを見送り席へ残ることにした。


「……で、何ですの?」


 上手くいっているし、一体何があるのだろうか。

 意味の分からない私から、ゲールへ問いかける。


「う、上手く、話せてましたかね!?」

「いや、話せていましてよ?」

「そ、そうかなぁ? き、ききき、嫌われてないでしょうか!?」


 ……え、何?

 さっきまでのリードしている姿が嘘のように、不安が滲み出るところか不安に支配されたような情けない表情を浮かべながら、ゲールは必死に確認をしてくる。

 まぁ不安なのは分かるし、今ここに私がいるのもそういう客観的評価を下すため。

 しかし、さっきまで何も問題なくリードできていたと思っていただけに、その変わりように私も理解が追い付かない。


「だ、大丈夫でしたわよ?」

「嘘をついていませんか!?」

「付いていないわ、本心よ」

「う、嘘です! もう心臓が飛び出るかと必死すぎたんですよ!?」

「……もう、知らないわよ」


 もしかしなくても、ゲールって結構面倒臭いかもしれない……。

 別に嘘は付いていないのに、全く信じようとしないゲールに呆れて深く溜め息をつく。


 だが、一つだけ分かったことがある。

 ゲールという男は、何もゲームと変わらなかったのだ。


 ヒロインの前でだけは仮面を被っているだけで、実際のゲールは普通の男の子だったのである。

 マジラブでゲールが一番ミステリアスだった理由は、こうして仮面をはめながら本心を隠していたから。

 そしてその本心とは、本当にフローラが大好きだけれど、嫌われたくて必死だっただけ。


「すみません、お待たせしましたぁ!」

「いえ、お帰りなさい」


 フローラが戻ってくると、またニッコリと笑みを浮かべながらリードするゲール。

 そんな素早い変わり身も可笑しくて、こっちは込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だ。

 まさか最難関攻略キャラが、実はこんなにも分かりやすい性格をしていただなんて思いもしなかった。


 そんな、二面性を極振りしたようなゲールだが、当然フローラはそんなことを知らない。

 対してフローラは、裏表の全くない性格をしている。

 それはゲームでの情報だけではなく、こうして一緒に過ごしていれば分かること。

 だからゲールも、もっと素直になれたらいいのにと思うけれど、マジラブでも最後は素直になれていたのだから、ここは温かく見守ることにいたしましょう。


 こうして食事会は、最後まで和やかに過ごすことができた。

 ゲールとフローラも仲を深めることができているし、これはもうマジラブならゲールルートへ入ったのではないだろうか。

 その証拠に、ゲールと話すフローラは本当に楽しそうにしていたのだ。


 ヒロインと攻略キャラクター。

 そんなこの世界の神に決められた二人なら、きっとこのまま上手くでしょうと微笑ましい気持ちになりながら、私はこれからも二人のことを応援したいと思う。


 ――あーあ、私にも素敵な王子様が現れないかしら。


 王子様と言えば、クロード様。

 フローラがゲールルートに入ったとするならば、クロード様はどうなるんだろう……?


 それはマジラブの中では描かれなかった世界線。

 フローラが現れなければ、悪役令嬢のメアリー……つまり私とそのまま結ばれるの?


 ……いえ、それはありえない。

 フローラが現れなくとも、クロード様が以前の私を選ぶ理由なんて何もないのだ。


 ――まぁ、今の私でも選ぶ理由はありませんわね。


 だからきっと、また別の誰かと結ばれるのだろう。

 それが誰かは分からないけれど、みんなが幸せならOKですって感じだ。

 私もいつか、誰かと結ばれるのだろうか……?

 なんて少し考えてみたけれど、実際の恋愛経験ゼロな私には全く実感が湧いてこないのであった。


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