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第三章 魔法実技祭

第35話 二学期

 長かった夏休みも終わり、今日から二学期。

 また学園へ通う日々が始まる。


 久々に制服へ袖を通した私は、学園へ通える楽しみ半分、夏休みが終わってしまった悲しみ半分。

 この感覚は、別に前世も異世界生活も変わらないものだなと一人納得しながら、私は久々に自分の教室へと向かう。


「メアリー様、ごきげんよう」

「ええ、ごきげんよう」


 すれ違う子達が、私へ朝の挨拶をしてくれる。

 社交界で会った子もいるけれど、ほとんどが一学期ぶり。

 私も久々に会えるのが嬉しくて、ただ挨拶を交わすだけでも心が弾んでくる。


「あ、おはようございます! メアリー様!」

「ええ、おはよう」


 そんな挨拶の中でも、ひと際嬉しそうに挨拶をしてくれる人物が一人。

 それが誰かなんて言うまでもなく、この夏休みにさらに仲を深めることが出来たフローラだった。

 廊下で偶然会ったフローラが、私を見つけるなり嬉しそうに駆け寄ってくる。

 それは私も同じ気持ちのため、二人手を取り合いながら学園での再会の喜びを分かり合う。


 ……しかし、そこで私はあることを思い出す。

 そういえば、フローラとの仲は秘密にしていたということを――。


 以前より薄まってはいるものの、フローラはまだまだ貴族意識の根強いこの学園における非常識枠。

 故に、彼女に対して未だに良い感情を抱いていない貴族も多いのだ。

 だから公爵令嬢である私が、こうしてフローラと親しくしている光景は周囲に対してそれ相応のインパクトを与えてしまっていたようだ。

 周囲に居合わせた人達が、みんな驚いてこちらを見ていることに気付く……。


 しまったと思っているのは、どうやらフローラも同じ。

 やらかしてしまったと青ざめながら、救いを求めるような視線をこちらへ送ってくる。


 ――まぁ、ここは私が何とかするしかないわね。


 以前の私は、この学園における一番の悪役令嬢。

 言わば、フローラと私とでは本来対極の存在だったと言える。

 けれど、もう悪役令嬢でもなければ、周りを気にして制限されるのも違うのだ。


 だって私は、メアリー・スヴァルト。

 高貴な身分に、傲慢な性格。

 全ては私の思うがままだと思っている、傍若無人の悪役令嬢様なのだから。


 そもそも、この学園において身分差は存在せず、学生は皆平等なのだ。

 だから本来、私とフローラが仲良くすることは何ら問題がないのである。

 けれど、それを問題視してきたのは他でもない私達貴族のせい。

 だからこそ、貴族の中では最高位の公爵家に生まれたこの私が、皆を代表して行動で示すべきだろう。

 これも丁度いい機会だと思い、いっそこのまま怯えるフローラをハグでもしてやろうと思ったその時だった――。


「相変わらず仲がいいな」

「二人とも、おはようさん」


 偶然通りかかったクロード様とキースが、私達に声をかけてくれる。

 言うまでもなく、二人こそがこの学園における中心人物。

 そんな二人が、私だけでなくフローラに対してもフレンドリーに接しているということが、この学園の全てだった。

 次第にこちらへ集まっていた注目も散っていく。


「そ、その……おはようございます……」

「そんなに緊張しなくていいって! なぁ? クロード?」

「ああ、そうだな。学園でもよろしくな」

「は、はい! こちらこそ!」


 フローラ自身、この場を助けてもらったことは分かっているのだろう。

 恥ずかしそうに、でもどこか嬉しそうに少し頬を赤らめながら、二人に対して深く頭をさげるフローラ。

 こうして二人のおかげで丸く収まったことに、私も安堵して自然と笑みがこぼれてしまうのであった。


 でも思えば、これは自然なこと。

 二人は本来、マジラブの中では攻略対象キャラであり、フローラとくっつくかもしれない最有力候補なのだ。

 これがキッカケで、何か関係性に変化が生じるかもしれない……。


「メアリー嬢も、おはようさん」

「おはよう、メアリー」


 しかし二人は、フローラの件が済むと今度は私へ迫ってくる。

 しかもクロード様に至っては、フローラの謝罪には顔色一つ変えなかったというのに、心なしか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか……?


 そんなこんなで、朝から二人に少し圧倒されながらも、こうして私の学園生活が再び始まるのであった。


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