人生の師匠、メアリー様。
僕はメアリー様のおかげで、前向きに変わることができた。
何がどう変わったとかは自分でも上手く言語化できないけれど、それでも僕の取り巻く環境は大きく変わった。
メアリー様のようにはいかなくても、それでも自分なりに積極的になることができたおかげで、僕にもこの学園で友と呼べる存在ができたのだ。
……まぁそれも、僕がメアリー様とお知り合いになることができたことがキッカケで、やっぱり全てメアリー様のおかげなのだけど。
僕がメアリー様と面識を作れたことを知ると、みんな驚いて僕の元へと集まってきたのだ。
平民でありながら、どうやってあの高貴なお方とお近づきになれたのかと、みんなから質問攻めにあってしまった。
僕だけでなく、みんなメアリー様に憧れているしお近づきになりたいのだ。
だから僕も、嘘偽りなくあるがまま答えた結果、その会話がキッカケで打ち解けることができたのだ。
僕のことをいじめてきた三人も、今ではすっかりと大人しくなっており、改めてメアリー様が貴族社会においてどういう存在なのかを分からされている。
――でも本当、あの時はかっこよかったなぁ。
僕の中で、日に日にメアリー様への憧れが強まっていく。
あの件の翌日、キース様が心配して声をかけてくれた。
キース様と言えば、あの時一緒に問題解決をしてくれた、メアリー様同様にとても高貴なお方だ。
だから本来、僕からお願い事をするなんて畏れ多いことだとは分かりつつも、僕は勇気を出してキース様へ一つ相談をさせて貰った。
改めて、メアリー様へ感謝を伝えたいと――。
するとキース様は、僕の相談にも快く乗ってくれて、なんとメアリー様と会話できる場面を用意してくれると言ってくれた。
そうして昼休み、僕は早速メアリー様へ感謝を伝える場面を用意して貰えた。
あまりにも急展開過ぎたけれど、キース様が用意してくれた機会だ。
僕は勇気を出して、メアリー様へ感謝を伝えるとともに僕の決意も述べさせてうた。
僕もメアリー様のような、強い人になると――。
そんな僕の決意に対して、メアリー様も応援をしてくれた。
そのことが嬉しくて、嬉しくて、僕はまた新たな一歩を踏み出せる気がしてきたのだ。
それから数日が経ち、現在の僕は自信を持って変われたと言えるようになった。
まだまだメアリー様のようにはいかないけれど、それでも僕は僕らしくあろうという意識が、自分の中でしっかりと根付いている。
おかげで今では、貴族のみんなとも良好な関係を築くことが出来ているし、学園へ通うのが本当に楽しみになっている自分がいる。
入学当初から考えれば、全く想像も付かなかったこと。
それでも僕は、今を楽しいと感じているのだから、それが全てだった。
学園を卒業したら、僕も立派な商人になってメアリー様へ恩返しをする。
それがこれからこの学園での……いや、僕の人生の目標となった。
――気付けば頭の中、メアリー様のことだらけだな。
あの日以降、僕は暇さえあればメアリー様のことを考えていることに気付く。
でもこれは勿論、強い憧れからくるものだ。
メアリー様の全てが理想で、学園でも見つけたら自然と目で追ってしまっている自分がいる程に。
そんな日々を過ごしていると、あっという間に一学期も終了して夏休みに突入する。
僕はこの夏休み、家族に学園での楽しかったことを沢山伝えた。
父さんから貰った「期待してるぞ」の一言が、本当に嬉しかった。
だからこそ、もっと頑張ろうという気持ちが芽生えてくる。
将来は必ず、父さんの仕事を引き継げるような人物になってみせると。
そんな夏休みのある日のこと。
父さんの仕事が休みの日に合わせて、家族水入らず街の料理屋さんで食事をすることとなった。
肉料理で有名な大衆酒場らしく、一体どんなお店んあんだろうと期待して注文をすると、僕の予想の斜め上の料理が届けられる。
大きなお皿に、これでもかってぐらい盛られた肉、肉、肉!
小柄な僕には、とてもじゃないけれど食べ切れなさそうな量の料理を前に驚く僕を見て、父さんも母さんも可笑しそうに笑っていた。
そんな、久々の家族そろっての外食。
お手洗いから席へ戻る道中、僕は偶然別のテーブル席にいたフローラさん、そしてまさかのメアリー様と遭遇した。
「……あれ? フローラさんと、メアリー様?」
思わず僕は、二人に声をかけてしまった。
すると二人とも、一瞬僕がいることに驚いてはいたけれど快く僕のことを受け入れてくれて、何故かそのまま相席をさせていただくこととなった。
両親が戻らない僕を心配するかもしれないし、メアリー様と同席するだなんて畏れ多い。
それでも僕は、この千載一遇の機会を逃してなるものかと思い、勇気を出して相席させて貰った。
テーブルには、先ほどと同じここの名物の肉料理。
注文は一つだけだけれど、これを一つ頼めば大人の男性二人がかりでも大満足できるボリュームだ。
それを女性二人で食べ切るのは当然大変だろうから、僕も食べ切るのをお手伝いさせて貰うことになった。
まぁ正直、既にお腹は腹八分目。
全然食欲は湧いてこないのだけれど、困っている女性二人を前に無理だなんて言えるはずもない。
こんな僕でも、少しぐらい男らしいところを見せようと思いながら、とにかく詰め込めるだけ肉料理を口へ放り込む。
すると二人とも、そんな僕のことを楽しそうに見てくれていたから、どうやら誠意は汲み取っていただけたようだ。
でもまさか、メアリー様とフローラさんが一緒だとは思わなかった。
あくまで外野から見ての感想だけれど、フローラさんとメアリー様は対極の存在だと思っていたからだ。
厳格なメアリー様からすれば、フローラさんのようなタイプは最も受け入れがたいのではないかと、勝手ながら思っていたのだ。
そんな対極な二人が、一緒に食事をして楽しんでいたのである。
しかも言い方はあれだけれど、こんな庶民向けの大衆酒場で。
驚きの連続だけれど、それでもそれが嬉しいと感じている自分がいた。
高貴な身分であっても、こういう所にも居てくれている事が、何だか身近に感じられて嬉しいのだ。
そんな突発の食事会、短い時間ではあるけれど楽しい時間を過ごすことができた。
フローラさんもメアリー様も、とても接しやすくて会話が弾み、僕も自然と自分のことを色々と話すことができた。
いつも凛々しいお姿を見てきたけれど、ここでのメアリー様は完全にオフモード。
笑ったり、フローラさんの言葉に少し膨れて見せたり、恥ずかしそうに頬を赤らめたり――。
こうして見ると、メアリー様も同世代の女の子なのだと感じられることに、僕は計り知れない喜びを覚えていた。
そして僕は、色んな表情を見せてくれるメアリー様の姿に、新たな感情を抱いていることにも気が付く。
でもそれは、絶対に抱いてはならない感情……。
だからその感情はそっと胸の奥にしまい込んで、今はこの幸せな時間を思う存分楽しむことにしたのであった。