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第42話 雑談タイム

 授業が終わり、私が向かう先はいつもの図書館。

 今日は久々に、フローラとの貴族勉強会と称した雑談タイムの約束をしている。


 昨日の一件以降、どうやらフローラを取り巻く環境も変化が起きているらしい。

 私やクロード様達と繋がりがあると知られた今、これまで話したことのなかった人達からも好意的に声をかけられる機会が増えているのだとか。


 私はともかく、クロード様の影響力はそれほどまでに大きいということ。

 平民だの貴族だの張り合うよりも、貴族にとって公爵家や王族とお近づきになることの方がよっぽど重要だから。

 そう考えると、私やクロード様、そしてキースと仲良くなったフローラは、やっぱりこの世界でもヒロインなのかもしれない。


 でもそれはヒロイン云々の話ではなく、彼女自身の魅力が為せる業なのだと、今の私ならよく分かっている。

 誰にでも分け隔てなくて、素直で笑顔が眩しくて、そして野球が尋常じゃないぐらい上手なフローラこそがヒロインに相応しいと今では胸を張って言えるのだ。


「あ、メアリー様!」


 私がいつもの図書館のテーブル席へ到着するや否や、嬉しそうに立ち上がり手を振って迎えてくれるフローラの姿。

 私は攻略対象キャラでもなければ、ゲームではただの悪役令嬢ポジションのモブキャラクター。

 それでもこの笑顔の前では、思わず恋に落ちてしまいそうになってしまう程魅力が溢れている。

 ちなみにこの世界では、女の子同士の恋愛ってどうなんだっけ……。


「お疲れ様です。メアリー様」


 そしてもう一人。

 フローラと向かい合う形でテーブル席へ座っているのは、ゲール・ノイナー。

 ゲールと言えば、マジラブの攻略対象のキャラクターで、この世界では唯一のマジラブの展開通りにフローラへ惹かれている人物だ。


 ゲームではミステリアスなキャラだったが、その実とても分かりやすい性格をしており、一言で言えば既にフローラにベタ惚れ状態。

 そんなゲールが何故こうして同席しているのかというと、夏休み中一緒に食事した際に交わした約束が理由だったりする。

 私達がここで密会していたことを知っていたゲールも、二学期からはご一緒しようという話になったのだ。

 フローラも人が多い方が楽しいと言って、女性だけでなく男性も一緒ということに素直に喜んでいた。

 入学当初は中々この学園に馴染めなかったのだ、こうして気の知れた異性も仲間に加わるというのが嬉しいのだろう。

 であれば、私も断る理由もない。


 ……でも一番喜んでいるのは、間違いなくゲールである。

 今もニコニコと微笑んでいるが、その口元まで緩んでしまっていることを私は見逃さない。

 マジラブで言えば、他の攻略対象キャラはノミネートすらしていないライバルゼロ状態。

 言わばこの世界では、フローラをヒロインとした恋愛レースはゲールの一人勝ち状態。

 だからまぁ、フローラを傷つけることさえなければ、それぞれの恋愛が成就してくれればそれで良いと思っている。


 ちなみに、そんなフローラとゲールの関係だが、まだフローラからしてみればゲールは異性のお友達止まりといったところだろう。

 それでも、こうしてご一緒する程度には二人も打ち解け合っているので、このまま順調に行けば時間の問題だと思っている。


 もし二人がこのまま結ばれれば、もしかしたらこの場はなくなってしまうのかもしれない。

 それでも、二人が幸せならオッケーです!

 と言いたいぐらいには、私も二人の恋を応援したいと思っている。


 ――でも、恋愛かぁ。


 結局私は、どうしたいのだろう……。

 人の恋愛ならこんなにもハッキリ分かるというのに、自分のことになるとからっきし……。


 今私の身近にいる男性と言えば、この間遊びに誘ってくれたトーマスに、なんやかんや絡んでくるキース。

 そして、私の婚約相手であるクロード様――。


 この三人、もしくはそれ以外の誰かと、私もいつか恋に落ちて結婚するのだろうか……?

 全く実感が湧かないけれど、今のままならそのお相手はクロード様ということになる。

 つまり結婚すれば、私が王太子妃ということになるけれど……ダメだ、前世の記憶の混ざった今の私では、何というか全くイメージが湧かない。


 でもそれも、あと三年未満には決まってくること。

 もっと周囲の人達と、しっかり向き合っていかなければならないだろう。


 ――でも今は、雑談タイムを楽しまなくちゃね!


 まぁ今悩んだところで仕方ない。

 私はフローラの隣に腰かけると、二学期最初の貴族勉強会改め雑談タイムを楽しむのであった。


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