魔法実技祭、当日がやってきた――。
今日に向けて、これまで実行委員会で計五回に渡る打合せを重ねてきた。
最初はどこか客観的だった私も、回を増していくごとに主体性が生まれ、今ではこのお祭りをやり遂げたいと思っている。
だからこそ、今日の本番。
私は任された務めをしっかりとこなし、そして出場される皆さんのことを応援しよう。
そう決心しながら、今日も学園の校門をくぐるのであった。
魔法実技祭のルールは、至ってシンプルなもの。
一年生から三年生まで、選抜された五名が順に最大限の魔法を観客へ披露をするだけである。
一年生から順に披露されるのだが、やはり三年生ともなると放たれる魔法も相当なもので、毎年大盛り上がりとなる一大イベントだ。
去年なんかは、魔法で会場に大きな地割れを起こしているのを観客席から眺めていたことを思い出す。
まだ記憶を取り戻す前の私は、その魔法のレベルの高さに少し驚く程度だった。
でも今なら、それがどんなに凄いことか改めて理解できる。
やっぱりここは、異世界ファンタジーの世界なのだ。
地球の科学では実現不可能な、魔法という人知を超えた超常現象。
それを平然と使いこなす人達で溢れているこの世界、本当に何が起きるか分からないし危険と隣り合わせなのだ。
今の世界と前世の銃社会、比較するとどちらが恐ろしいだろうか……。
……うん、どっちも恐ろしいな。
まぁ、そんな魔法実技祭。
今年からは、私も観客ではなく当事者。
知った顔もこの魔法実技祭には出場するから、みんながどんな魔法を披露してくれるのか内心凄く楽しみだったりする。
前世では、文化祭とかそういうお祭りに参加することが叶わなかった分、今日はめいっぱい楽しもう。
そう思い私は、さっそく任された仕事に取り掛かるべく少し早歩きで向かうのであった。
「お、来たな! おはようさん!」
「おはようございます」
集合場所へ到着すると、既に先に来た同じ実行委員の皆さんが準備を進めてくれていた。
僅か数回の打ち合わせをしただけだけれど、それでも今では完全に仲間と言える存在。
それはキースも例外ではなく、声をかけてくれるキースに今日は私も素直に挨拶を返す。
するとキースは、そんな私が少し意外だったのか、子供みたいな笑みを浮かべるのであった。
そんなキースも、今日はこの魔法実技祭には出場するのだ。
せっかく出場するのなら、是非優勝目指して頑張っていただきたい。
そのためにも私が、大会実行委員として任された仕事をやり遂げよう。
私も気合いを入れて、それからせっせと準備に取り掛かるのであった。
◇
「出場者は、こちらへお願いしまーす!」
実行委員の上級生の呼びかけで、今日の魔法実技祭へ出場されるメンバーを一か所に集める。
そこには、ここ魔法学園へ通う中でも、成績の高さで名の知れた顔ぶれが集まっていた。
同じ一年生の列には、フローラにゲール、そして何だか久々にお顔を見た気がするクロード様の姿。
その姿に私は、何だか胸がきゅっと締め付けられるような感覚を覚える。
一瞬目が合ったような気がしたけれど、互いの視線が交わる事なかった。
私もこれから来賓の方々をエスコートする役目があるため、もうすぐこの場を立ち去らなければならないし、この気まずい空間から早く抜け出したい……。
――あれから一度も会話をしていないけれど、もうずっとこのままなのかしら……。
それは素直に言って、寂しいなと思う。
婚約どうこうの話ではなく、私はクロード様と仲良くなれたと思っていたから。
それはクロード様だって同じだと思っていたのに、そうではなかったのだろうか……。
また胸が、きゅっと締め付けられる。
近くにいるけれど、どうしても埋められない心の距離が、そこには確かに存在するのであった。
「メアリー嬢、そろそろ持ち場についてくれ」
「あ、はい! 行ってきますわ!」
「おう、よろしくなっ! 今日は俺も負けないから、応援よろしく!」
「ええ、応援していますわ」
声をかけてくれたキースに、私は頑張れと伝える。
この魔法実技祭、もしもキースが勝ったら時間をくれと言われているが、それがモチベーションになるのなら私の時間ぐらいくれてやろうと思っている。
目的こそ分からないが、今も嬉しそうにやる気に満ち溢れるキースの姿に、私の心もちょっとだけ軽くなった気がするのであった。
こうして私は、まずは今日の魔法実技祭を無事に成功させるべく、気を取り直して自分の役目を全うすることだけに集中するのであった。