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第50話 ご案内と破滅?

「まさか、メアリーに案内される日が来るとはな」

「うふふ、自分でもびっくりですわ」


 魔法実技祭へやってきた両親を、来賓席へと案内する。

 お父様の言うとおり、去年までは私も両親と一緒に案内される側だったけれど、今年は私が案内をする側。

 お父様の言葉に、自分でも不思議な感じがしてくる。


 下級貴族の方々から順に対応しているが、通される席や扱いは身分によって異なっており、公爵家という爵位が特別なのだと改めて実感できる。

 そんな気付きもまた、学生として案内する側に回ったからこそ実感できたこと。


 愛娘の成長に、感激から少し目を潤ませるお父様に、やれやれと呆れつつも一緒に成長を喜んでくれているお母様。

 そんな両親の温かさに、私も何だか目頭が少し熱くなるのを感じつつも、今は案内係のためしっかりと役目を遂げることに集中する。


 案内したのは、会場を一望出来る特等席。

 先にご案内したアークライト家と両翼を成す形で両親を席へ案内すると、残るは中央の一段上がった来賓席のみ。

 そこへ腰かけるのは勿論、ここバーワルド王国の王家の方々である。


 残すは王家の方々の到着を待つのみとなった私は、馬車の到着を待つべく校門へと戻る。

 既に会場は沢山の観客で埋め尽くされており、今日という日が国を挙げたお祭りなのだという実感が湧いてくる。

 だからこそ、そのお祭りの一端を自分も担っていることが素直に嬉しい。


 前世はお祭りなんて、行けても近所の盆踊りぐらいだった私にとって、これは初めて参加できる大きなお祭りなのだ。

 だからこそ、やれる限りを尽くして、あとは私自身もこのお祭りを全力で楽しむべし!

 だから今日は、自分にとってもみんなにとっても最高の一日となればいいなと思う。


 そんなことを思いながら到着待っていると、暫くしてついに王家の馬車が到着する。


「出迎えありがとう。今年もみなの活躍を楽しみにしているよ」


 馬車の中から降りてきた国王様が、私達出迎えに労いの声をかけてくれる。

 国王様から直々にお言葉をいただける機会なんて、公爵家の人間でも滅多にないこと。

 故に、私以外の学生は勿論、同じく出迎えに並ぶ教師の方々まで感動しているご様子だ。


 続けて王妃様へのご挨拶を済ませると、最後に馬車から降りてきたのはクライス様だった。

 去年まではこの魔法実技祭にも不参加だったけれど、今日はその姿を見せたことに驚きの声が上がる。


 女生徒達からは、控えめながらも黄色い声が上がっているところを見ると、クロード様と同じく女子達の気を引いているのが窺えた。

 確かに、クロード様とはタイプが違うけれど、中世的でカッコイイよりも美しいと形容するのがしっくりくるクライス様は、女生徒達が騒ぐのも分かる――。


「どうしたの? 考え事?」

「ええ、まぁ――って、何でもありませんわっ!」


 つい、ぼーっとクライス様について考え込んでいると、そのご本人から声をかけられて慌てて気を引き締める。

 つい油断して、要らぬことを考えてしまった……。


 しかし、口では否定してもクライス様は欺けない。

 きっと見透かされているのだろう、クライス様は面白がるようにニヤリと笑みを浮かべている。


「今日は、メアリーさんもお出迎え?」

「ええ、今回実行委員を務めさせていただいておりますので」

「そっか。着いて早々メアリーさんに会えるなんて、今日はついてるなぁ」


 そう言って、子供のように無邪気な笑みを向けてくるクライス様。

 その美しい笑みを前に、私はつい見惚れてしまいそうになるのを必死に堪えて自分の務めに集中する。


 この会場には、沢山の人が集まっているのだ。

 万が一にでも王家の方々に不測の事態が発生しないよう、しっかりと席までエスコートするのが私の役目なのだ!


 というわけで、先生方と私が先導する形で王家の方々を来賓席までご案内する。

 しかしその道中もクライス様は、嬉しそうに私の隣に並んで話しかけてくる。

 それはそれで構わないし、私も会話のお相手をしながら歩いているのだが、後ろを歩く国王様と王妃様の視線がどうしても気になってしまう……。


 お二人は、私とクロード様の婚約解消をご存じなのだろうか……?

 不本意ながらも、私はクロード様から婚約解消を告げられた身。

 その話がお二人の耳にも届いている場合、私は大切な王子様からノーを突き付けられた残念な存在。

 いくら公爵家とはいえ、決して好かれてはいないだろう……。


 その状態で、今度はクライス様と仲良くしているというのは、どう考えても見え方的に最悪だ。

 別に私は、王家の方々の中を乱したいわけでもなんでもないのだ。

 ただ私は、こっちの世界での破滅を避けつつ、何事もなく平穏無事に過ごしたいだけなのに……。


 そう考えると、結局私は破滅する運命なのかもしれない。

 フローラとの関係を構築できたことで、すっかり危機感を失ってしまっていたけれど、ゲームでの私は必ず破滅する運命にあったのだ。

 たとえシナリオが変わったとしても、破滅する未来は変わらないのだとしたら……?


 ……いかんいかん、少なくとも今考えることではない。

 まずは自分の務めを全うし、この魔法実技祭を終えてから人生の作戦を練り直すとしよう。


 そうこうしていると、来賓席へと到着する。

 王家の方々を席へご案内し、無事来賓の方々が全員揃ったことの確認をもって任務達成。

 今年も何もトラブルなくお迎えできたことに、ほっと胸を撫で下ろす。


 しかし、安堵したのも束の間。

 最後の最後で、最終試練はやってくるのであった――。


「待たれよ、メアリー」


 立ち去ろうとする私へ、まさかの国王様から直々にお声をかけられる。

 私は胸が飛び跳ねそうになるほど驚きつつも、長年貴族として培ってきた社交スキルを発揮し何とか平静を装う。


「は、はい。いかがなさいましたでしょうか?」


 しかし返事をしても、国王様からの言葉はない。

 ただ私のことを、品定めをするようにじっと見つめてくる――。


 ――うぅ、胃が痛い。早く帰りたい……。


 この国の頂点にじっと見られるというのは、前世で言うところの総理大臣……いや、天皇様に見られているのと同じ的な?

 実感が無さ過ぎて全くしっくり来ないが、要するに物凄く畏れ多いのだ……。


「今日は、クライスもこの祭りに来たいと言ってな。理由を聞けば、君がいるからと答えたのだ」

「そ、それは良かったです。とても光栄に存じます」

「理由を聞けば、クライスは君が好きだと言う」

「ふぇ!?」


 あ、やばい。国王様の声で変な声を上げてしまった……!

 慌てて口を押えるも、漏れてしまっては後の祭り……。


「しかし、君はクロードの婚約相手だったはずだ。そうだろう?」


 そして国王様のその言葉で、事態は更にややこしくなる。

 国王様がこうおっしゃっているということは、おそらくクロード様は婚約解消の話をまだされてはいないということ。

 だから、ここで私が「実は婚約解消しています」なんて明かして火に油を注ぐような真似はできない。

 今はお祭りの真っ最中だし、そもそもクロード様が話していないことを私の口から伝えることなんて出来るはずもないのだ。


 ……しかし、問題はこの話は表裏一体。

 ここで私が「はい、そうです」と答えようものなら、それは国王様相手に嘘を付くということ。

 もしその嘘が後々捲れでもすれば、それこそ私は虚偽の罪によりそれ相応の罰を受けることにも成り兼ねないのだ……。


 最悪の場合、それがキッカケでそのまま破滅するなんてことにも……。


 つまり、この問いかけをされたが最後。

どっちに転んでも駄目なこの状況、私はどう答えれば良いのか分からず硬直してしまう。


 ――ああ、終わったんだ……。


 まさか、こんなノールックで終わりが訪れるなんて……。

 であれば、私も腹を括るしかない。

 どっちがマシかで言えば、それは勿論真実を告げる事だ。

 国王様相手に要らぬ嘘を付くなんて、不敬にも程があるから。


 というわけで、完全に諦めながら返事をしようとしたその時だった――。


「父上、いらっしゃっていたのですね」

「おお、クロードか。今日は活躍を期待しているぞ」


 来賓席へとやってきたのは、クロード様だった。

 国王様に声をかけてくれたおかげで、私の話は一旦有耶無耶になる。

 これは本当に偶然だったのだろう。

 ここに私がいることを知ったクロード様は、一瞬戸惑うような表情を見せるも、すぐに状況を理解したのか間に入ってくれる。


「ええ、お任せください。――それはそうと、少しメアリーと話があるのでよろしいでしょうか?」

「うむ、別に構わん。私は今、彼女に感謝を告げたかっただけなのだ」

「感謝……?」


 驚きから、思わず声が漏れてしまう。


 ――え、今の流れで何故そんな話に……?


 破滅の危機すら感じていたというのに、いきなりの感謝という真逆の言葉が出てきて理解が追い付かない……。


「そうだ。君のおかげでクライスは変わった。クロードのみならず、クライスにまで君は良い影響を与えてくれているようだ」

「私の、おかげで……?」

「そうだ。だからこれからも、二人をよろしく頼む」

「は、はい……」

「では父上、失礼します。行くぞ――」


 展開についていけない私の手を、クロード様に握られる。

 この場を切り抜けるためだと分かっているけれど、久しぶりの触れ合いに私の胸はトクンと一つ高鳴りを覚えるのであった――。


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