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第52話 開会

 学園長の開会の挨拶、そして国王様から出場者への激励の言葉をもって、いよいよ魔法実技祭が開始となる。


 既に役目を終えている私は、実行委員の皆さんと一緒に会場脇のスペースでこのお祭りを見守る。

 最も舞台の近くの席で、ある意味去年の来賓客の時よりも特等席だ。


 最初に出てきたのは、一年生の成績上位者の男の子。

 彼は下級貴族ながら魔法の才に恵まれており、成績も優秀なことで知られている。

 顔立ちもよく、取り巻きの子達の中にも彼に少し気があるような子もいるぐらいだ。


 たとえ貴族だろうと、前世で言うところ私達は華の女子高生。

 だから年相応に、学園の誰誰がカッコイイだとか、お付き合いするしないで盛り上がったりもするのだ。

 まぁそんな女子同士の恋バナトークも、ほとんどがクロード様やキースの話題で持ち切りなのだけれど……。


「羽ばたけ! ブリザードバード!!」


 詠唱ののち、早速魔法が放たれる。

 氷で出来た大きな鳥が、会場を旋回する。

 空気は途端に冷えつき、鳥の飛んだあとの空気は氷結しており、日の光が反射してとてもキレイだ。


「……すごい!」


 至近距離で見る、自分では扱うことのできない高度な魔法。

 まるで本当に生きているように、空を自由に飛ぶ大きな氷の鳥。

 私はただ夢中になって、その凄まじい魔法に見惚れてしまう。


 最後は空高く氷の鳥が飛散し、一番手の魔法のお披露目が終わる。

 空から降り注ぐ氷の破片が、キラキラと輝き幻想的でもあり、一番手ながら会場は大盛り上がりで拍手喝采となる。


 私も他の実行委員のみんなも、立ち上がり拍手を送る。

 身分など関係なく、ただその魔法の素晴らしさを素直に称える。

 今日この日の為に、私達も一生懸命準備をしてきたからこそ感慨一入だ。


 大きな拍手が送られる中、次に登場してきたのはフローラ。

 フローラと言えば、最早言うまでもなくこの世界――マジラブの絶対的ヒロインだ。


 ゲームでは、光魔法で悪魔を退治するシーンなどもあったりするのだが、特待生として入学してきたフローラの魔法の腕前は本物だ。

 普通に言えば、上級生の方が魔法に対する知識やスキルが高いのは当然。

 それでも、このフローラは今大会の優勝候補の一人と言えるほど、その魔法のスキルは頭抜けているのである。


「「わあああああああああ!!」」


 フローラの登場に、会場からは先ほどよりも大きな歓声が上がる。

 それは、今日ここへ集まっている人々の多くは、貴族ではなく平民の方々だから。

 きっと事前に、平民から今大会へ出場するという前情報が出回っていたのだろう。

 学園へ入学するだけでも難しいのに、更には貴族よりも優秀な成績を収めなければこの魔法実技祭への出場は叶わないのだ。

 それは過去数年を振り返っても、前例のないことなのである。

 故に、こうして集まった平民の方々からの期待が高くなるのは当然の事なのである。


 フローラは一度深呼吸をし、精神統一する。

 そして、小さな金属の杖を前に構えると、魔法の詠唱を開始する――。


「神なる光よ、闇を打ち消したまえ――ホーリーレイン!」


 フローラの詠唱の直後、周囲の光を取り込むように空中に浮かび上がる白い光の球体。

 その球体は高速で上空へ飛び上がると、そのまままるで花火がはじけ散るように会場一帯へ飛散する。


 飛散した光は大粒の雨のように、高速で会場へ鋭く降り注ぐ。

 それはまるで光の大雨のようで、これが戦闘であれば回避不可能な攻撃魔法だった。


 まばゆい光の神々しさと、圧倒的な広範囲攻撃魔法。

 その見た目の美しさと魔法の有用性、二つの視点から見てもフローラの放った魔法は素晴らしいの一言だった。


 そもそも、この世界で光魔法を扱えること自体が稀なのだ。

 そのうえ、一年生ながらこのような高度な魔法を扱えるフローラは、自身が特待生であることを証明するのに十分だった。


 全ては論より証拠。

 その三年生にも引けを取らない圧倒的な魔法を前に、最早フローラに対して悪い感情を抱いていた人達も、もうあれこれ言うことはできないだろう。


 いつもフワフワとしたフローラだけれど、本気を出せばこのような魔法だって扱える。

 そのギャップも相まって、やっぱりフローラこそがこの世界のヒロインなのだと分からされた気持ちだった。


「ありがとうございました!」


 とびきりの魔法を披露したフローラは、やり遂げた表情で会場に向かって大きく手を振る。

 それに呼応するように、会場からはまた大きな歓声が沸き上がるのであった。


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